Q. アセチル化木材とは?
A. 木材は,吸・脱湿によって伸縮し,しかも,方向によってその程度が異なるので,割れや反りが起こる場合がある.
木材が吸湿し,寸法を変化させるのは,細胞壁中に存在する水酸基など水分子の吸着点が存在するためである.親水性の水酸基を疎水性でかさ高いアセチル基で置換し,水分吸着量を減少させ,木材の寸法変化を少なくする処理がアセチル化処理である.
木材を無水酢酸中で120℃程度の温度で処理する.処理による材色,強度的性質の変化は少なく,木質感が保存され,耐腐朽性が飛躍的に向上する.(MN)
Q. 曲げ木とは?
A. 木材に適度の水分と熱を与え,細胞壁の成分の一部を軟化させた後,繊維方向に沿って曲げ,乾燥して変形を固定したものを曲げ木と呼ぶ.
曲げる際,ハガネの薄い板(帯鉄)を木材の一面に沿わせ,それらを一体として帯鉄側が凸面となるようにして曲げる(トーネット法).水分と熱を与え,木材を軟化させる方法として,一般に蒸気で蒸すことが行われるが,熱水に浸漬する場合もある.
曲げ木の変形は,湿度変化によって回復する性質があるので,一般に,両端を固定して使用する.高温水蒸気処理によって,変形を永久に固定することも可能である.椅子の背もたれ,木製楽器,照明器具,樽,運道具なの湾曲部材や曲げわっぱに用いられる.(MN)
Q. 高温・高圧水蒸気処理とは?
A. 木材の成分分離,変形の永久固定,木質ボード類の寸法安定性の付与,透過性の改善,加熱手段などとして,高温の飽和水蒸気処理が注目されている.
成分分離では,230℃で数分間の処理が行われる.処理により,ヘミセルロースは低分子化し,水可溶となり,リグニンは有機溶媒や希アルカリに可溶となるので,細胞壁の主成分であるセルロース,ヘミセルロース,リグニンを分離することができる.
変形の永久固定やボード類の寸法安定性向上には,180℃で数分間の処理が行われる.処理により,ヘミセルロース,リグニンがある程度低分子化し,また,セルロースの結晶性が向上する.これに伴って,内部応力が緩和し,変形の回復が飛躍的に抑制される.
透過性改善のためには,160℃以下の比較的温和な処理が行われる.処理により,壁孔閉鎖の減少,沈着物の除去,壁孔壁の軟化,圧力による壁孔破壊が生じる.加熱手段としての蒸気噴射プレスでは,さらに低い温度の水蒸気を使用する.プレスに開けた小孔から噴射される蒸気は,木質マットの内部まで瞬時に浸透し,接着剤が均一に加熱されるので,ボード類の製造に応用されている.(MN)
Q. 最近,ホームセンターなどでよく売っているレッドシーダー,アガチス,ファルカータとはどのような材ですか?
A.
- ホームセンターなどで売っているレッドシーダーはネズコ属のウエスターンレッドシーダー(ベイスギ)で,北米産の針葉樹材です.比重が0.35~0.4の心材が赤みを帯びた暗い褐色,木理が通直で,加工もしやすい材です.建築用造作材などの用途が多いですが,心材の耐朽性が高いので最近ではエクステリア(外構材)やガーデニング関係の材料によく使われています.(レッドシーダーにはこのほかスパニッシュシーダーなどのセンダン科の数種の熱帯産の広葉樹材がありますが,日本ではほとんど見かけません.)
- アガチスは産地によってはカウリ,ダマールとも呼ばれる,東南アジア・オセアニア産の針葉樹材です.比重が0.35~0.65の桃色を帯びた淡褐色の材で,木理は通直,加工は容易で表面の仕上げもよいですが,個々の材によって材質にはかなりの変動があります.用途は広く,造作,家具のほか,一般の工作に適しています.耐朽性は高くないので,湿気が多いところやエクステリア用材としては使わない方がよいでしょう.
- ファルカータは東南アジア産の広葉樹材で,地域によってアルビチア,センゴンラウト,バタイなどと呼ばれることがあります.比重が0.3~0.45の軽軟な淡色の材で,木理は交錯していますが,加工は容易で表面の仕上げもよいので,軽構造材のほか,一般の工作に適しています.耐朽性は低い材です.(TS)
Q. 産直(産地直送)住宅は100%地元の木材を使っているのですか?
A. 木造の住宅には種々の部材が必要で,それぞれに適した材質の種々の木材を使う必要があります.したがって全ての木材を同じ産地でまかなうことはできません.そこで必要に応じて他の産地の木材も使っています.一般に柱,梁,床などの主な部材は地元産の木材を使っていますが,2~4割程度は,外材を含めた他の産地の木材を使っていると考えるほうがよいでしょう.
Q. 建築用材として国産材と外材とではどちらが優れていますか?
A. 木造建築には土台,柱,梁,垂木,敷居,鴨居,床材など,種々の部材が必要です.それぞれの部材の機能(強さ,耐朽性,狂いにくさ,装飾性など)を果たすに必要な木材の材質は部材の種類によって違います.この機能を十分に果たすことができる性能を持っている限り,使用する木材は国産材であろうと外材であろうと優劣はありません.実際にどちらを選ぶかは,個々の材料の品質,価格,施主の好みによって決まることが多いようです.
Q. 家具売場で「これは“突板(つきいた)貼り”です」とか「“天然突板貼り”です」という言葉を耳にします.突板って何ですか?
A. 木材の角材を機械で削り出すことを突くといいます.ここから突いて削りだした板を突板(銘木突板,天然木突板)と呼ぶようになりました.
突板は一般に家具,キャビネット,建築物の内装用の装飾表面材に多く使われるところから化粧単板とも呼ばれています.
一般に突板の厚さは 0.15mm~1.2mm位まであり,0.5mm以下を薄単板,0.6mm以上を厚単板と呼びます.また,突板の中で杢目の美しい木,色のきれいな木,香のすばらしい木,形の珍しい木等化粧性に優れた木材を銘木突板といいます.
この突板は単板とも呼ばれ,天然化粧単板,天然銘木単板,天然突板単板は同じものを指します.(TN)
Q. 床暖房に使用された木の床はスキやソリ,ワレが発生しやすいと聞きます.床暖房用の木床について教えてください.
A. 床暖房方式には温水による床暖房方式と,電気による床暖房方式があります.以下はいずれの方法にも共通する内容です.
床暖房用床材について
住空間に利用される暖房形式には,熱の伝わり方によって次の3つに分類されます.
対流方式:温風暖房機などによるもの
伝導方式:足温器・電気毛布などによるもの
輻射方式:石油ストーブ・暖炉などによるもの
床暖房は,このうち伝導方式と輻射方式を組み合わせた暖房形式です.
床暖房の特徴
床暖房時の床表面温度は普通25℃~30℃の範囲であり,その接触温は人体にとって快適温度となっています.
床暖房時の室内の垂直方向の温度分布は17℃~18℃で均一であり,温風暖房などにみられるような部屋の上部にゆくほど温度が高くなることは少ないのです.
燃焼ガスが発生せず,空気の汚れが発生しません.
床暖房に使用する木床の留意点
床暖房に使用する木床は,普通一般に使用されている木床に比べて,使用時の環境条件が異なります.
床材の表面温度は25℃~30℃ですが,熱源との接触界面では70℃~80℃の温度に上昇します.
実生活時に床材の表面が座布団などで被覆され,部分的に30℃以上の高温度になることがあります.
同一床面内で床暖房装置が敷設されている床面と敷設されていない床面(普通,部屋の床面積に対して70%前後の面積が敷設される)で表面温度が異なり,床暖房装置が敷設されていない床面に微細な表面結露が発生することがあります.
上記のように,温度や水分・湿度条件が,より過酷な条件下に曝されます.
木床の含水率について
床暖房木床は,床暖房使用時期には含水率3%前後,不使用時期(雨期・夏期)には含水率13%前後になります.床施工時初期の床材の含水率が低い場合は,その後の吸湿によって床材のツキ上げやふくれが発生します.また,初期含水率の高いものは,床暖房使用時期の放湿によってスキやワレが発生してきます.
このような吸放湿にともなう木床の伸縮挙動を少なくするために,木床を化学処理し,寸法安定化をはかることが一般的に考えられます.一方,製品の初期含水率8%前後(±1%)に管理し,吸放湿にともなう伸縮挙動を小さくします.すなわち,スキや伸びは発生しますが,それを目立ちにくくする工夫も,自然材として木床を使用するための経済的な方法です.下の表は床基材の各種材料を大枠でくくった含水率の変化に対する寸法変化率です.
各種床材料の吸放湿にともなう含水率1%当たりの長さ・巾寸法変化率
材 料 変化率%
ミ ズ ナ ラ 材
接 線 方 向 0.35
半 径 方 向 0.18
ラワン合板 9㎜ 3ply 0.016
M D F 9㎜メラミンタイプ 比重0.70 0.035
パーティクルボード9㎜メラミンタイプ 比重0.73 0.042
合板基材は最も変化率の小さな基材ですが,その含水率の幅管理が難しく,辺材と心材の混入や異樹種の混入などがあれば,製品内および製品間で含水率のバラツキ幅が3%~20%におよぶことがあります.そのため,合板基材を使用した床材は,挙動の安定した床材とそうでない床材とのバラツキが大きいのです.
MDF(中比重繊維板)などのエジニアリングボードは,吸放湿にともなう寸法変化率は大きいものの,製品内や製品間のバラツキがが少なく,商品としての含水率変化に対する安定性は期待できます.ただし,耐久性能から判断すると,床暖房用木床基材として使用可能な基材は耐久性接着剤使用の合板基材か,特定メラミンタイプのMDFに限られます.
木床の厚みについて
床暖房用木床の厚みは,薄いものほど表面温度の立ち上がり速度が速いため,熱効率が良く,経済的です.ただし,床材の厚みが薄すぎるため,次のような不具合が発生しないよう,工夫する必要があります.
床暖房装置の不具合(装置間のスキや装置の波打ちなど)が表面に映出しない厚みであること.
床暖房装置が温水マットのような柔らかい装置の場合,歩行時や生活時に不快な柔らかさを感じさせない厚みであること.
床材自体の厚みの薄さによって,反りやねじれ・ワレなどの発生がない厚みであること.
木床の巾・長さ寸法について
床暖房木床は,普通一般に使用する木床に較べて吸放湿による伸縮変化が激しいのです.木床の巾・長さの寸法を小さく分割することにより,伸縮にともなって発生する応力を緩和させ,反り・狂い・ねじれ・スキ・ツキ上げなどを目立たなくすることができます.ただいたずらに寸法を小さいものは床材としてのデザイン性を欠いたり,施工性を悪くしますので注意を要します.
木床の施工方法について
木床固着用接着剤は,熱変化(0℃~80℃) の繰り返し劣化の少ない接着剤を選択してください.また,上貼型の場合は床暖房装置の表面材が,木質・金属・プラスチックなど装置メーカーによってその表面材が異なるため,いずれの被着材であっても良好な耐久性のある接着剤を選択してください.接着剤の選択の誤りによって,床が浮いたり,スキが発生したり,接着界面で床鳴りを発生させることが多くあります.
木床の表面仕上げについて
表面仕上げ塗料及び着色剤は,熱変化による劣化の起こりにくい塗料・着色剤を使用してください.
着色剤の選択の誤りによって,初期の色が熱によって変わってくることがあります.また,一般の床材よりも表面にヒビ割れが発生しやすいので,ヒビ割れ防止処理の床材を使用することが大切です.
床暖房用装置の選択と床下地及び下地組について
床暖房用木床としてその性能は保持されていても,下地となる床暖房用装置の品質不良のため,ふくれ・波打ち・はがれ・床鳴りなどの不具合や床暖房用装置を支える床下地基材の劣化変形(凹凸)が床材表面に現れたり,更に最下層の大引・根太組が床暖房によって乾燥収縮し,壁面・敷居と床材とのとり合わせに大きなスキを発生させたりすることが多くあります.
床暖房をする場合は,
床下地組の材料は乾燥材を使用するしてください.
床面と壁面・敷居のとり合わせは,床材の伸縮による『逃げ』をあらかじめとっておいてください.
床下地材は耐久性のある床下地材(乾燥した板材または耐久性接着剤使用の合板など)を使用してください.
床下地材の施工は床下地材の吸湿にともなう伸び量のスキをあけて施工してください.
品質の安定した床暖房装置を正しく施工してください.
床暖房用に設計された木床を使用してください.
すなわち,床暖房では床全体をそれに適した部品・部材・施工法を採用し,床仕上げをすることが最も大切なことです.(TN)
Q. 突板製品の表面にヒビワレが発生することをよく聞きますが,突板製品の表面ヒビワレがなぜ起こるのですか? 教えてください.
A. 木材は,大気中の湿度変化に伴い,吸湿,放湿を行い,同時に伸縮をおこします.この繰り返しの急激な変化時に,割れ,裂けの現象が発生します.この割れ,裂け現象が製品の表面に発生したものをヒビワレと呼んでいます.
その形状は概ね,巾 0.5mm~1.0mm,長さ 10mm~50mm程のものが多いのです.ヒビワレの形状はいろいろな型に分類されますが,実際使用上問題となるヒビワレの形態は表面にもり上がりのあるものです.これは突板の下地に使用されている合板基材の表板の裏割れが乾燥により大きくなって表面突板にワレを発生させるものがほとんどです.
これに対する具体的防止策としては,
- 合板の表板の繊維方向と,表面の化粧単板との繊維方向を直交する様な製品構成したもの
- 合板の表板と,化粧単板の間に,紙または不織布のような層を挿入し,合板の表板の動きと,化粧単板の動きに対するクッション層を設け,合板の表板の影響を受けないようにしたもの
- 製品そのものを吸湿,放湿によって寸法変化が発生しないように化学処理を行ったもの
- 下地に合板以外の基材,例えばMDFなどを使用したもの
などがあります.
それ以外にヒビワレの発生は突板と基材(合板やMDF)との接着が弱いため,突板が浮き上がって発生したり,表面塗料の選択が誤ったため塗料が割れてヒビワレが発生することもあります.(TN)
Q. KD材とは何ですか?
A. 乾燥された製材品(板材や角材)のことです.
KDはKiln Dryの略で,乾燥機で含水率25%以下に乾燥させた木材をさしますが,日本農林規格(JAS)では,25%以下,20%以下および15%以下の三種類に区分されます.
従来の木造住宅の建築では,製材して十分乾燥しない状態の木材が使用されてきましたが,近年,強度や寸法精度の高い構造用材料への要求が高まりつつあり,変形や寸法変化の少ないKD材が普及しつつあります.(YF)
Q. 木質建材のホルムアルデヒド放散量の基準について教えて下さい.
A. ホルムアルデヒド放散量の基準は,JAS(日本農林規格)では普通合板,コンクリート型枠用合板,構造用合板,特殊合板及びフローリングの規格に,JIS(日本工業規格)ではパーティクルボード及び繊維板(MDFのみ)の規格に規定があります.
基準の数値は,一定枚数の試験片をデシケータという密閉容器に入れて20℃で24時間放置した時,一緒に入れた水に吸収されたホルムアルデヒドの水中濃度です.
このデシケータ値は一般に問題となる気中濃度(単位ppm等)とは別のもので,デシケータ値から気中濃度を推定するには,その建材の使用量,部屋の容積,温湿度,換気量等が大きく影響し,また建材からの放散量は十分な換気が行われれば時間経過とともにある程度のレベルまでは急速に低減するといったこともあるため簡単ではありませんが,影響する因子を考慮した推定式などが提案されています.
最近,ホルムアルデヒド等の化学物質による室内空気汚染が大きな社会問題となっていますが,合板などの木質建材でも価格を抑えられた中でホルムアルデヒド放散量の低減に各メーカー努力されており,全般的には放散量レベルの低い製品がかなり普及してきていると言えます.
なお,JASのF1~F3の基準は,低ホルムアルデヒドである旨の表示をする場合のみ適用する任意基準であり,Fの表示がないからホルムアルデヒド放散量がF3の基準を必ず超えているとか,F3が最悪レベルであるとかいうことではありません.
一方,対象となる製品は違いますが,JIS表示品はE0~E2の何れかに分類されます.(HY)
デシケータ法による水中濃度の基準 | JAS(任意) | JIS(択一) | 備 考 |
0.5mg /?以下 | F1 | E0 | JASは左の数値が何枚かの平均値の基準で,他に各枚の最大値の基準があります. JASとJISでは厚さにより試験片の数に若干差がありますが他は同じ方法です. |
1.5mg /?以下 | - | E1 | |
5.0mg /?以下 | F2 | E2 | |
10.0mg /?以下 | F3 | - |
Q. 集成材のJAS規格での分類と性能評価について知りたい.
A. 集成材は,その強度的なばらつきが小さいことなどから,本来構造的な利用を主に諸外国で発展してきた木質材料ですが,日本では従来,表面に美しい化粧薄板を貼った化粧ばり集成材(鴨居,敷居,長押などの造作材や見えがかりの柱など)としての利用がむしろ中心だったと言えます.
しかし近年,建築基準関係法規における大断面木材の耐火性能の再評価や,住宅施工後の木材の乾燥収縮に起因するクレーム対策等からその寸法安定性が改めて見直され,大壁工法の管柱や,梁・桁など,化粧ばりを施さない構造的な利用が大きく増加しています.
このような状況にも対応する形で,JAS規格においても平成8年に大幅な規格再編が行われています. 鴨居,敷居などに代表される「化粧ばり造作用集成材」や見えがかりの柱として使用される「化粧ばり構造用集成柱」,及び主として階段板やカウンターなどに利用されることの多い「造作用集成材」など,前述のような日本独特の使い方をする集成材に対しては「集成材の日本農林規格」として従来の規格を若干整理して踏襲し,一方,純粋な構造用の集成材については,大壁用柱など小断面の構造用集成材を,旧構造用大断面集成材規格と統合し,新たに「構造用集成材の日本農林規格」として一本化しています.
構造用集成材のJASには,同じ品質のひき板を積層した「同一等級構成集成材」と,外側の層ほど強いひき板を配置して積層した「異等級構成集成材」の区別があります.
異等級構成集成材は,梁等の高い曲げ応力を受ける部材で,構成するひき板を最外層・(外層)・(中間層)・内層用に区別し,最も応力が大きくなる外側(梁の上下面)に使うひき板ほど品質基準を厳しくしています.
異等級構成集成材の最外層~内層のひき板は,積層方向の中心から上下に向けて対称に配列する(対称構成)のが一般的ですが,上側と下側では下側がより強度を要求されることから,上側の層のひき板の基準を,下側の層よりやや緩くした「非対称構成」の基準も設けられています.
構造用集成材の強度性能は,曲げヤング係数(たわみにくさの指標:記号E)と曲げ強さ(破壊時の最大曲げ応力:記号F)の組合せで,「E○○-F○○」というように表示されます.
E-Fの等級は樹種やひき板の構成等により何種類もありますが,業界団体の日本集成材工業協同組合では,主に生産される構造用集成材(標準集成材)の強度等級を,下表のように示しています(抜粋).ただし,原木事情の変化等により,一般的に生産できる製品の強度等級や,その強度等級の製品を製造するための原料コスト等は変化していますので,詳しくは各メーカーとご相談願います.
標準的な構造用集成材の強度等級(抜粋)
区 分 | 主 な 樹 種 | 強 度 等 級 |
異等級構成 (対称構成) | ベイマツ,サザンパイン等 | E120-F330 E105-F300 |
ヒノキ,ヒバ,カラマツ等 | E105-F300 | |
ベイツガ,ラジアタパイン,アラスカイエローシダー等 | E 95-F270 | |
スプルース,エゾマツ等 | E 95-F270 | |
スギ,ベイスギ等 | E 75-F240 | |
同一等級構成 (4枚以上の ひき板を積層 したもの) | ベイマツ,サザンパイン等 | E120-F375 |
ヒノキ,ヒバ,カラマツ等 | E105-F345 | |
ベイツガ,ラジアタパイン,アラスカイエローシダー等 | E 95-F315 | |
スプルース,エゾマツ等 | E 85-F300 | |
スギ,ベイスギ等 | E 75-F270 |
なお、構造用集成材のJAS認定工場については,合板,フローリング,集成材等のJAS登録格付機関である(財)日本合板検査会の各検査所へお問い合わせ下さい.(HY)
Q. 「構造用集成材」と「造作用集成材」のそれぞれの特徴を教えてください.
A. 集成材はJASによって構造用集成材と造作用集成材とに分けられ,構造用集成材は一定の強さをもっていることが必要です.このため,挽き板の継ぎ方や積層枚数が定められています.
造作用集成材は階段の手すり,和室の長押など,身近に使われています.
また,構造用集成材も造作用集材も共に表面に化粧用の単板を張って,それぞれ化粧貼り構造用集成材,化粧貼り造作用集成材と呼ばれています.(TK)
Q. 集成材のホルムアルデヒド放散量についての基準はありますか?
A. 集成材のJAS(日本農林規格)及び構造用集成材のJASには,現状ではホルムアルデヒド放散量の基準は設けられていません.
しかし,集成材からのホルムアルデヒド放散がどの程度のレベルであるかということは,ユーザーにとって大きな関心事であると思います.
ただ,集成材では合板に比べて断面が大きくなるので,普通合板などのJASによる試験方法を準用した場合に,デシケータという限られた大きさのガラス容器に入れる試験片の形状寸法や,接着層の断面が露出する木口面の取り扱い,合板などの面材に対して実際の使い方や使う量の違いを気中濃度への影響としてどのように評価するか.などが課題としてあると考えられます.
このような状況の中で,これまで様々な方法により集成材のホルムアルデヒド放散量についての試験が行われてきたのが実情ですが,業界団体の日本集成材工業協同組合と,集成材のJAS格付機関である財団法人日本合板検査会では,評価の統一を図るために一定の方法を定め,依頼検査における標準的な方法を定めています.
集成材のホルムアルデヒド放散量についての依頼検査は,財団法人日本合板検査会の各検査所へご連絡下さい(近畿四国地域は同検査会大阪検査所が管轄しています.連絡先:06-6685-0255).(HY)
Q. 紙や新聞紙の原料としてパルプ,ミツマタ,楮(コウゾ)などを耳にしますが,木のどの部分からできているのですか? また原料の違いでどう変わるのですか?
A. 紙は植物繊維を水で分散させ,無機または有機添加物を加えたものを漉いて作ります.その原料となるパルプとは木材や繊維を含む植物からセルロースを取り出したものです.
セルロースで構成されている原料はすべてパルプの原料になり,木材のほかにワラ・タケ・ケナフ・バカスといった農産廃棄物や草本からの利用もあります.木材パルプ(針葉樹パルプ,広葉樹パルプ)がその生産量のほとんどを占め,それ以外の植物から生産されるパルプは10%未満です.日本のパルプ製造はほとんどが木材を原料とするので,ここでは木材パルプについて説明します.
パルプは原木や廃材チップ・古紙等から,機械的方法または薬品を使った化学的方 法など原料に適した方法で工場で生産されています.木材成分は,セルロース(約半 分を占める)・ヘミセルロースの繊維成分と,繊維間を結合しているリグニン・樹脂 等で構成されています.
製造法別では機械パルプと化学パルプに分けられ,前者は機械的力で繊維を引き離して作り,したがってパルプの成分は木材とほとんど同じ状態です.新聞紙,週刊誌,紙タオルに利用されています.後者は繊維間を結合しているリグニンを薬品で溶解させてパルプにする白色度が高い上級パルプです.またパルプの再利用としては古紙を水に分散させ,脱インキ処理をした古紙パルプがつくられています.
一方,コウゾ(楮),ミツマタ(三椏),ガンピ(雁皮)は現代の和紙の代表的な3原料で,樹皮の繊維を利用しています.とくにミツマタは栽培が容易で,その靭皮(じんぴ)繊維は繊細で耐伸・耐折強度,弾力性及び光沢性に富み,機械で漉くことができるので,証券紙,紙幣紙等の高級紙原料として使われています.(JY,RK)
Q. 先日,我家の一部を改造しました.その時に近所の大工さんが,ここは下地にベニヤを貼ってとか,これは合板で作ってあるからとか言われていました.ベニヤと合板の違いを教えて下さい.また,コンパネって何ですか?
A. 恐らくこの大工さんは,ベニヤも合板も同じ意味で使われていたのだと思います.数10年前には,無垢板に対し合板がベニヤとよく呼ばれていたことがありました.
正確にはベニヤとは,厚み0.6mm~3mmの単板のことです.原木からリンゴの皮を剥くようにとったのがロータリーベニヤ.スライスして採ったのがスライスベニヤです.
合板は,そのベニヤに接着剤を塗布し,繊維方向を交互に組み合わせて奇数枚積層接着して出来たものの事です.厚みは一般的に2.5mm~15mm,幅,長さは3尺×6尺,4尺×8尺であり,幅は長さの1/2が通常です.
コンパネとは,コンクリートパネルの略です.家の基礎を作る時などのコンクリートを固める時に使われます.合板のうち,サイズが12mm(厚さ:t)×900mm(幅:W)×1800mm(長さ:L)で耐水性のあるものを特にこう呼んでいます.
いずれにしても,この合板の出現により建築材料が大きく進歩したことは確かです.(TT)
Q. メーカーの建材カタログを見ていると,合板,LVL,PB,MDFという表現がよく出てきます.これらについて教えて下さい.
A.
- 合板 (Ply Wood):原木をリンゴの皮を剥くように,厚み0.6mm~3mmの単板と呼ばれるものに加工し,それらを繊維方向が互いに直交するように,奇数枚積層接着したもの.無垢材に比べ,幅方向の膨張・収縮が小さく,反りも少ない.強度的にも方向性が少ない.サイズ的には,3尺×6尺,4尺×8尺が一般的..
- LVL (Laminated Veneer Lamber 単板積層材):丸太から剥かれた単板を繊維方向をそろえて積層接着したもの.長さ方向の寸法変化が小さく,製材品に比べてサイズの自由度がある.
- PB (Particle Board 削片板):木材の小片(チップ)に接着剤を加えて,熱圧成型した板.ヨーロッパでは,合板を作る大径木の原木が少なかったことから,PBの製造が発展し家具によく使われた.比重は0.5~0.7.成盤サイズの自由度が大きい.合板やLVLに比べ厚み方向の膨潤率が大きく,木ネジ保持力が弱い.強度や寸法変化に,たてよこの方向性がない.
- MDF (Midium Denctiy Fiber Board 中比重繊維板):木材チップをさらに繊維状に解繊し,接着剤を混合して熱圧成型した板.強度や寸法変化に,たてよこの方向性がない.側面も含め表面が非常に平滑に仕上る.厚みは2.5~30mmまで対応でき,サイズの自由度も大きい.合板やLVLに比べ厚み方向の膨潤率が大きい.(TT)
Q. 国内産木材のいわゆる無垢材について,「無垢材であるから健康によい」という触込みで営業を行う業者がいます.確かに接着剤に含まれるホルムアルデヒド等の有機化合物の揮発による害は無いかもしれません.しかし,木材に塗付される防腐剤の揮発による害が懸念されます.そこで疑問なのですが,そもそも防腐剤の塗付(あるいは注入)されない木材製品(無垢,集成に限らず)というのはありうるのでしょうか?
A. 防腐剤の塗付(あるいは注入)されない木材はいくらでもあります.まず国産の木材は防腐処理をしない限り,何も人工的な成分が入っていません.ただし木材は自然素材で,自然の持っている力の中で人間に合わないものもあります.たとえば漆などがいい例です.これはかぶれます.また最近一番人気のあるレッドシダーでもまれにかぶれる人がいます.(KN)
Q. 現在,絨毯張りの部屋をフローリングに張り替えようと思っています.無垢の桧のフローリング材を使用したいと思っているのですが,なにぶん素人なものでいくつかの疑問点があります.よろしければ教えていただけないでしょうか.
[1]桧の無垢のフローリング材とは素人でも施工できるものでしょうか?
[2]施工する時に接着剤を塗布する範囲を教えてください.
[3]床養生とは何をするのですか?
[4]パイン等の集成材も有害物質を出すのですか?
A.
[1]桧の無垢のフローリングの施工は個人の技量によって出来ないことはないですが,職人にしてもらうのが無難です.小さな納屋ならまだしも住居の一室なら,おすすめは難しいです.
[2]接着はボンドを根太につけるのと,くぎを併用します.根太が必要です.
[3]養生というのは施工したあと,他の作業者がその上を歩いて汚さないよう,合板とかダンボールを敷くことを言います.
[4]パイン材にもいろいろな種類がありますので,一概には言えませんが基本的に天然のものであれば有害物質はほとんどありません.ただ人によってはアレルギーが出る場合がありますが,パイン系統はそのようなこともないと思います. (KN)
Q. 一般のツーバイフォー住宅に使用されているS-P-F材とはどういう性質をもっているのでしょうか? ウッドデッキに利用しても大丈夫でしょうか?
A. S-P-F材はスプルース・パイン・ファーの3種類の材をひっくるめて言う材のことで,SPFという樹種はありません.アジア人と呼ぶ中に日本人と韓国人と中国人とあるようなもので,いやこれらの人種は違うといっても欧米人から見るといっしょに見えるという類のものです.このSPFという材はカナダの中部に産する木ですが,特徴としては適度に柔らかいので(日本の杉と桧の中間というところです)釘打ちがしやすく,狂いも少なく,また中部から貨車で運んでくる必要性から人工乾燥しています(貨車は重量当りの料金を取られるので乾燥して軽くする方が得).この人工乾燥のお陰で,取り付け後のゆがみやそりがなく,日本におけるツーバイフォー工法のほとんどはこの材を使うようになりました.
欠点は水には弱い木ですので,デッキ等に使うとすぐに腐ります.日本で一番流通しているツーバイフォー材ですので,どこのホームセンターでも販売していますが,販売員の方に木の知識がなく,この木をデッキに使って「防腐塗料を塗れば長持ちします」とか言ってデッキ材として売っています.我々から見ると恐ろしい限りです.
この前もカナダのメーカーの社長が「日本のホームセンターでSPFをデッキ材で販売している.信じられない・・・」と言っておりました. (KN)
Q. 海外と日本の家を比べると,日本の家はすごく高いのですがなぜでしょうか? 日本は土地が狭いので土地が高いのはわかります.でも,家は20~30年しかもたないのに,なぜこんなに価格は高いのでしょうか? 以前,TVでスウェーデンの家をみたのですが,すごく広い土地と家で,価格が800万円弱でした.私は2×4か2×6の家を造りたいと思っているのですがランバーが高いのでしょうか? それとも,家をつくる技術料が高いのでしょうか? 日本では高くていいもの,が当たり前ですが,私は安くていいものを作りたいと思っています.自分でDIYできるところは,やりたいと思います.
A. 日本の家は高いの件ですが,ひとくちでは説明しにくいてす.
- あえていえば,建設システムが異なるのです.今ではどんな方法でも高くならざるを得ません.安い輸入住宅で建てようとしても結局そんなに安くはなりません.こちらのシステムではいろいろな業者がいて,効率が悪いのです.
- また,お客さまの注文が細かいことまで言われるので,きちんとした仕事をしなければならないのです.アメリカの住宅など,荒っぽいものです.
- 人件費が高いのも原因のひとつです.
- 木材が高いということはありません.大阪で4000万で販売されている住宅ですと木材業者が工務店に納める木材代金は150万ぐらいです.
- お考えのようにご自分でやるのが一番ですが現実には難しいと思います. (KN)
Q. 木材を塗装する場合に木材の道管をシーラーなどで埋めて木材の面を平滑にして仕上げを施したりするのが常例ですが,これはわたしの認識では木の呼吸を完全に止めて,木の収縮をなくしていると考えています.昨今,自然塗料というものを聞きます.これは従来の塗料が体にも環境にもよくないとして産まれた改良型の塗料だと思うのですが,耐水性があるのに木が呼吸出来るようなのです.この塗装法の違いによって木が呼吸できるできないは木材そのものにとってどのような影響を及ぼしているのでしょうか?
A. 錯覚されていることがありますが,木は呼吸すると言うと何か生きているようで,そのため,木の呼吸を止めてしまうといけないように思われていますが,木材はすべて死んでおり,酸素を吸って炭酸ガスを出すといった呼吸はしていません.
木材が周りの湿度に応じて,水分を放出したり吸ったりする現象を,一般に,木材が呼吸すると表現しているために誤解されたのだと思われます.活きの良い魚はおいしいですが,活の良い木は,家具や構築物としては良い木ではありません.
木材にニスやペンキの塗膜性の塗料を塗ったらいけないとことはありません.ただ,水分を吸放出する性質を利用して冬の乾燥期に室内が過剰乾燥になるのを防ぐなど,木材の調湿作用を期待するのであれば,水ははじくが吸湿はするオイルフィニッシュなど木材の塗装方法を工夫する必要があります.ストラディバリウスのバイオリンはニスが塗られていますが,何百年たってもすばらしい音色を奏でます.
いけないのは屋外に出す場合に木に塗膜性の塗料を塗ることです.木は水が浸入するとそこで水分が増加して腐朽菌が繁殖することになります.屋外の塗装でニスやペンキを塗ってそれで完璧に水の浸入を防げたらよいですが,実際は木の割れ目から中に水が浸入します.そうすると木の中の水が逃げることが出来ず,余計に腐りやすくなります.
ところで,自然塗料というのは最近よく出回っていますが,自然塗料の大きな特徴とは,1つには溶剤がシンナー等の石油合成品でなくて自然系のオイル.まあ分かりやすく言うとてんぷら油みたいなもので顔料を溶かしている場合です.2つ目は,これは屋外用の塗料に使われています防腐剤や防カビ剤等の毒が入っていないということです.自然塗料というのは概ねオイルスティンですがオイルスティンは塗膜をつくらないタイプですから,木は呼吸(この言葉は勘違いを起こすので,水分の出入りと言いましょう)はします.その塗料は耐水性はありませんが,顔料が耐候性であれば,耐候性が発揮されます. (KN)
Q. ウォーター・フロント周辺のウッドデッキにはどのような木材がよいでしょうか?
A. お勧めは次の2つです.
- サザンイエローパインの防腐注入された材を使う.ただし,日本で防腐注入するとJASの土台のグレードでしかしないため,日本の規格より格段に厳しいアメリカでの注入材を使用します.これが価格的には一番安い方法です.
- 価格的にはアップしますが,アフリカ材のボンゴシを床下構造材に使って,床板をブラジル材のイペを使う方法があります.この方法は防腐剤を使用しないので,官庁関係の仕事にはよく使われますが,非常に硬い木ですので,施工費用が高くなります.
上記2つについてはそれぞれ長所短所が他にもあるので用途によって使い分けが必要です. (KN)
Q. 「パイン」と呼ばれている木材ですが,北欧産のアカマツ全般を指しているのでしょうか? はたまた輸入材のアカマツがそのように呼ばれているのでしょうか? 国産のアカマツでもパインと呼ばれるのでしょうか? よく輸入住宅のカタログなどに床はパイン無垢を使用などと書かれていますが,正確な定義などあるのでしょうか?
A. パイン材という言葉の意味だけで言うと松ですから国産の松でもアメリカ産の松でもヨーロッパ産の松でもかまわないということになりますが,一般的な意味で言うとパイン材と呼ばれているのは欧州赤松と呼ばれる北欧産の松のことを言います.しかしこの一般的というのもここ5年ぐらいのことです.
それまではあまり欧州赤松は日本には入っていなかったのでパイン材という呼び名は一部の業者の方だけが使っていた言葉でした.国産の松の場合,日本住宅の梁に使われる赤松黒松は「地松」という呼び方をされます.これは対するにアメリカ産の「米松」と区別するために慣習化したものと思います(実際には米松と呼ばれている木は松ではなくダグラスファーと呼ばれる木ですが).また,日本でたくさん植林されているカラ松はパインではなくそのまま「カラマツ」と呼ばれています.
日本に入荷される松で多いのは2×4建築の構造材のSPF(この材はスプルースとパインとファーの混合して生えているカナダ内陸産の材種をひっくるめて略して呼ばれます)というカナダ産の材種です.この木はどこのホームセンターでも販売されている白っぽい木です.また,アメリカ産のサザンイエローパインと呼ばれる,家具とか防腐されてデッキとかに使われるパインもよく見かけます(強度があるのでボーリング場のレーンに使われたりしています.少し黄色い年輪のはっきりした木です).最後に欧州赤松です.これらがパイン材の輸入御三家と言うところでしょう.(ラジアータパインと呼ばれるニュージーランド産の松もありますが,これは内装材にはほとんど使われていません.)
しかし輸入業者によっては他意はなくカナダ産のものもアメリカ産のものもパインと言う名前で販売しているところもあると思います.我々専門業者では間違えるといけないので必ず,本来の樹種名を言いますが,建材メーカーさん等は長い名前になったり分りにくい名前を嫌うので単純に「パイン」で済ませているところが多いのが実情です.ですから輸入住宅でヨーロッパからの輸入住宅の場合はフローリングにパイン材使用と書いてあれば欧州赤松と考えて間違いありませんが,カナダ・アメリカからの輸入住宅の場合はパイン材と書いていれば,SPF材のことだと思います.(カナダのSPF材は安いのでアメリカへもたくさん輸出されています.)
以上がパインの説明ですが,施主様からパイン材を指定されたとしたら欧州赤松を使っておけば間違いはないと思います.(商品的には出回っていますし,品質も安定していますので無難です.) (KN)
Q. 通常,木材は伐採されてから製材されるまでの期間はどれくらいでしょうか? またどういう状態で置かれるのでしょうか? 種類によって違いがあると思いますが「杉」「檜」の場合で教えてください.
A. 地域や季節によって変わります.一概には言えません.推測ですが1ケ月から半年ぐらいの間ではないでしょうか. (KN)
Q. 屋外で使用したいあずま屋に向く木材にはどんな種類がありますでしょうか? また注意点などがございましたら教えていただけますか?
A. いくつかの答えがあります.価格と雰囲気と耐久性のバランスが問題です.あずま屋の場合は基本的に垂木や桁に雨がかからないので,雨がかかったり地際の常時湿潤になる柱の材を何にするかがポイントになります.通常は次のようにしています
・価格を安くしたい場合:加圧注入防腐されたスギを使用します.これより耐久性は劣りますが,ヒノキの磨き丸太を使うこともあります(この場合は完全に和風になります).
・耐久性を重視する場合:金属の柱に木材をラッピングします.この場合には,ある程度耐久性があり狂いが少ないことからレッドシダーやレッドウッドが使われます.デザインと取りつけ方法のバランスが非常に大事になりますので,通常は専門業者が設計します.
以上をまとめますと,
・柱に使われる材:スギの防腐処理材(角材・丸加工材),ヒノキ磨き丸太,レッドシダー,レッドウッド,金属心材に木材のラッピング
・桁や垂木材:スギ材(柱のついでに防腐処理することが多い),レッドシダー,レッドウッド,ベイツガ(米栂),ベイマツ(米松).ヒノキ(桧)の場合は桁にすると非常に高いので使っても垂木のみです. (KN)
Q. 名木と銘木の違いは何でしょうか?
A. 名木はいわれのある木,特に歴史上の人物と関係あるものが多く,歴史の記念のための木もあります.銘木は一般的に樹木には使われず,用材として価値のあるものに使う単語です.木造住宅の床の間材として呼ばれる場合や,業界用語として利用する場合が多いです. (KN)
Q. スウェーデン,フィンランドを主な産地とするレッドウッド(パイン)の日本名称を教えてください.ヨーロピアンレッドウッド,欧州アカマツとは別の樹種になるのでしょうか?
A. ヨーロピアンレッドウッドは欧州アカマツと同じで日本でいうレッドウッドとは異なります.属が異なります. (KN)
Q. 心持ち材は強いと聞きましたが,本当ですか?
A. 一部の木材店や大工さんの中には「心持ち材は強い」という人がいますが,構造材として使う場合に,心持ち材と心去り材のどちらが強いかは一概にはいえません.これは木材の強度を決める因子は多く,心持ちか心去りかはその因子の一つに過ぎないからです.
ここで樹心付近の木材の特徴を述べておきましょう.まず濃色の心材と淡色の辺材とでは耐朽性(腐り難さ)に違いがあっても,強度には影響しないと考えてよいでしょう.強度に影響するのは心材と辺材の違いではなく,樹心付近にできる未成熟材です.未成熟材とは,髄から10~15年輪までの樹心に近い部分の材で,それ以降にできる成熟材と違って繊維細胞が短く,強度が低い材です.
現在,市場で流通している人工林で成育したヒノキやスギでは,成育の初期から日当たりのよい条件で育ちますから,樹心付近で年輪幅も広く,製材品中で未成熟材の占める割合が多くなり,むしろ強度が低くなる傾向にあります.したがって,必ずしも心持ち材が心去り材よりも強いとはいえないわけです. (TS)
Q. 木造住宅の柱に使う樹種は,地域によって異なると聞いていますが,具体的には,どの様な樹種が使われているのでしょうか?
A. 在来工法の木造住宅の柱には通し柱,管柱,間柱があります.通し柱と管柱は構造材ですが,これらの間に立てる間柱は壁材料を支える下地材と考える方がよいでしょう.通し柱と管柱は,一般に軽くて強く,通直な長い材が得られる針葉樹材を使います.全国的にみてヒノキ,スギ,ベイツガなど使うことが多いようですが,地域によってはヒバ,カラマツ,エゾマツ(とくに北海道)などが好まれることがあります.このほか,現在では無垢材より品質が安定している集成材(集成柱)も使われています.集成柱には最近ではスギ,スプルース(ホワイトウッド)が約7割を占め,そのほか各種の内外産針葉樹材を使っています.和風建築では材の装飾性も同時に重視するので,柱材として木肌の美しい木を使いますが,ヒノキ,スギなどの化粧単板などの貼った集成柱も使います.間柱にはスギ,ベイツガ,マツ類などを使います.
このほか柱としては,一部の住宅にみられる大黒柱にはケヤキなどのような重硬な材を使います.また床柱は全くの装飾材で,強度には関係なく装飾性が高いスギの磨き丸太や銘木類を使います. (TS)
Q. エンジニアードウッドとは,どんな木材ですか?
A. 木材を挽き板,ベニヤ,削片にし,これを接着成型することで,高度に工業化された生産方式で,小径材や廃材から,寸法上の制約が少ない均質の木質材料を得ることができます.その様な木質材料のうち,特に,強度特性が計算・評価・保証された木材製品をエンジニアードウッド(EW)と呼びます.代表的なものは,構造用集成材,構造用LVL,構造用合板,OSBなどです.造作用集成材あるいは一般的なパーティクルボード,MDFは工業的に生産されていますが,構造的用途に必要な強度保証がなされていない場合には,エンジニアードウッドには入りません.一方,製材品であってもMSR材のようにグレーディングにより強度特性が保証されていれば,エンジニアードウッドの範疇に入ります. (TS)
Q. MSR材とは何ですか?
A. Machine stress rated lumberのことで,グレーディング・マシン(ストレスグレーダー)によって強度等級区分された製材品あるいは挽板です. (TS)
Q. 「エコマテリアル」って何ですか?
A. Environment Conscious Materials の略で,フロンティア性(人類の活動圏を広げ活動環境を拡張する),環境調和性(人類の活動圏と外部環境との調和を図る),アメニティー性(活動圏の中で生活環境に豊かさを与える)の3点から評価した「生態系に優しく環境保全に適した資材」を意味します.
木材は,製造から廃棄までの環境負荷が少なく,優れた吸放湿性や視覚特性,触感性によって,居住空間や人に豊かさを与えてくれます.しかし,使用環境によっては,強度が不足していたり,水分の吸脱着による寸法変化,変色,腐朽など,他材料に比べて劣る点が指摘されています.これらの欠点を物理,化学,生物処理によって補うことにより,木材を真の「エコマテリアル」に変換することができます. (MI)
参考文献
大越 誠:「解説・地球環境問題と木材」,日本木材総合情報センター, p. 36-37 (1999)
小池浩一郎:「現在林業」(1999)
Q. 環境に優しいリサイクル商品として「パーティクルボード」の名前をよく聞きますが,その特長や用途を教えて下さい.
A. パーティクルボードは,木材を破砕・切削して小片にしたチップに合成接着剤を塗布し,熱圧成型した木質ボードです.歴史的には,製材工場や合板工場等の木製品製造工場から出る廃木材を有効利用する目的で各地に工場ができました.現在では,そうした廃材に加えて,産業廃棄物と言われる,家屋解体材や流通廃材(梱包材やパレット等)の廃材も利用する様になってきています.
接着剤の方は,昨今のシックハウス問題で,現在の国内メーカーは殆ど低ホルマリンまたはゼロホルマリン系の接着剤に変わっており,現時点での最高グレードE0(ゼロ)では,天然木材が発するホルムアルデヒトに近い数値のものとなっています.
用途的には,家具材料,建築材料に使用されており,最近のキッチン等の収納扉はパーティクルボードの表面に印刷紙(メラミン化粧紙など)を貼った物が多くなっています.建築材料では,戸建て住宅の床下地(床フローリングや絨毯の下地),集合住宅(マンション)の床下地(置床システム)等に多く使われています. (ボードメーカー勤務・TY)
Q. 森林認証制度「FSC」とは,どのような制度ですか?
A. 森林認証制度とは,「適正な森林管理」が行われていることを,一定の基準に照らして,独立した第三者機関が審査・認証する制度です.FSC(Forest Stewardship Council 森林管理協議会)による森林認証制度はその一つで,世界で最も広く展開しています.FSCが定める基準は,環境,社会,経済の3つの側面から見て適正な森林管理であることを要求します.つまり,FSCの認証を取得した森林管理主体(個人の林業経営者や林業会社,森林組合などのグループなど)は,適正な森林管理を行っているという「お墨付き」を得ることになります.FSCの認証を受けた森林から出る木材やそれを加工した木材製品には,FSCのトレードマーク(ラベル)をつけることができます.それにより,環境への関心の高い消費者が,森林破壊によって生産された木材製品を避け,選択的に環境にやさしい木材製品を購入することができます.
森林認証制度には,FSCの他に欧州中心に展開するPEFC(Pan-European Forest Certification),アメリカで展開されている林産業界主導のSFI(Sustainable Forestry Initiative),カナダで展開されているCSA(Canadian Standards Association)などがあります. (シンクタンク勤務・DM)
Q. 認証木材(certified wood)って何ですか?
A. 環境等に配慮した適正な森林管理により生産された木材であると認証されている木材のことです.FSCの森林認証制度では,森林管理についての認証だけでなく,認証を受けた森林から出た木材またはそれを材料とする製品であることを審査・認証するCoC(Chain of Custody)認証というプロセスがあります. (シンクタンク勤務・DM)
Q. 「ISO14000シリーズ」って何ですか?
A. ISO14000シリーズは,ISO14001という環境マネジメントシステム(EMS: Environment Management System)に関する規格とそれに付随するガイドライン等の総称のことです.ISO 14001の認証を取得した企業は,環境負荷の少ない企業経営を実現するためのマネジメントシステムを確立しているということが保証されます.ISO14001はプロセス基準またはシステム基準と呼ばれていて,環境マネジメントの結果がどうかということよりも,その企業が定めた目標を達成するための経営システムが確立されているかどうかが審査対象となります.システムについての認証システムであるため,製造業だけでなく林業を含むありとあらゆる業種で認証取得が可能です.それに対してFSCの森林認証制度は,パフォーマンス基準と呼ばれ,経営システムよりも,定められた目標が達成されているかどうかという結果の方が主な審査対象となります.
ISO14001は,「組織の継続的な環境保全のための仕組み(環境マネジメントシステム)」に対する要求事項を規格化したもので,この要求事項は,大きく「環境保全のための仕組み」と「環境保全を継続的に効果的に進めるための経営の仕組み」に大別されています.
「環境保全のための仕組み」は,その組織の持つ重大な環境影響の特定,環境方針と目標・実現計画の設定,法規制の特定と遵守方法の設定,必要な場合には手順書による維持管理方法の確立,及びこれらの実施,監視が要求されています.また,「環境保全を継続的に効果的に進めるための経営の仕組み」は,環境保全組織とその責任・権限の明確化,必要な認識・訓練・能力づけのための教育制度の設定,文書体系の構築,文書・記録類の管理,問題発生時の是正処置実施,定期的な経営層による見直し,などが規定されています.森林管理の分野ではISOとFSCが良く比較されますが,ISOの方が文書整備を緻密に行う必要があると言われています. (シンクタンク勤務・DM)
※ISOは,International Standards Organization(国際標準化機構)の略.ISOは国別の規格管理機構の国際的な連合体で,工業製品などについて世界統一の規格を定めているが,14000シリーズ(環境マネジメントシステム)の他,9000シリーズ(品質管理システム)など,経営システムについての規格も定めている.
Q. 日本にもいっぱい木があるのに,なぜ外材を輸入するのですか?
A. 簡単に言うと,日本の木よりも外国の木の方が値段が安いからです. (MI)
Q. 最近「圧縮木材」や「圧密化木材」という言葉を聞きますが,どのようなものですか?また何に利用されるのですか?
A. 木材は中空のセル構造体であるため,繊維と直角方向(横方向)に容易に圧縮することができます.木材を横圧縮成形することを圧密化,圧密化した製品を圧縮木材,圧密木材などと呼びます.
木材の圧密化技術の歴史は古く,今世紀前半には,ブナやカバ材を高温圧締した圧縮木材(リグノストーンなど)が実用化されています.最近では,国産材や環境問題が引き金となり,スギ材などの軟質材の強度性能,加工性能,意匠性の向上を目的とした研究・開発が盛んに行われています.含水率,温度を傾斜させ,製材の表面層のみを圧密化した表面圧密化木材,丸太を二軸方向から圧縮して角材に成形する技術(奈良県林業試験場ほか),木材表面に金型の模様を転写する表面加飾技術(静岡県工業技術センターほか),丸太を静水圧下で圧縮して人工シボ丸太を製造する技術(マイウッド(株))なども開発されています.木材の圧密化技術の歴史は古く,今世紀前半には,ブナやカバ材を高温圧締した圧縮木材(リグノストーンなど)が実用化されています.最近では,国産材や環境問題が引き金となり,スギ材などの軟質材の強度性能,加工性能,意匠性の向上を目的とした研究・開発が盛んに行われています.含水率,温度を傾斜させ,製材の表面層のみを圧密化した表面圧密化木材,丸太を二軸方向から圧縮して角材に成形する技術(奈良県林業試験場ほか),木材表面に金型の模様を転写する表面加飾技術(静岡県工業技術センターほか),丸太を静水圧下で圧縮して人工シボ丸太を製造する技術(マイウッド(株))なども開発されています.
圧密化によって,木材の表面性能が飛躍的に向上するため,スギ材などの早生樹に代表される軟質木材を,硬質広葉樹材の代替材料として利用することが可能となります.表面層圧密化技術を利用した床材の開発,圧密化した単板をWPC化する技術(大建工業(株)),水蒸気前処理圧密化単板を化粧用突板と基材の間に挿入した床材なども発表されています.この他,スギ圧縮木材を利用して,テーブル,学校用学習机,和机などの天板が試作され(大分県工業技術センターほか),木製サッシ,敷居,鴨居のレール部分に,耐磨耗性に優れた圧縮木材の利用が検討されています.
圧密化による密度増加に伴い,曲げヤング率,曲げ強さなどの強度性能が向上するため,圧縮木材は,住宅内装用手すり,家具のフレーム用材料など,高い強度性能が要求される部材として利用できます.また,手すりのコーナー部,背もたれや脚部などの湾曲部についても,圧縮成形と同時に曲げ成形する技術が検討されています(山本ビニター㈱ほか).この他,樹脂含浸単板を積層圧密した強化単板積層材を木質構造物の接合部材(接合板,ドリフトピン)に用いる研究が行われています.
圧密化によって材料の重硬感が増し,熱処理などによる変色も加味して,高級感が増長されるため,慢性的な材料不足から高価で入手が困難なコクタン,ローズウッドなどの高級木材の代替として圧縮木材が利用できます.木材は,本来,不均質な材料ですが,圧密化すると,密度の小さい部分から変形するため,材質が均質化します.これによって,切削加工,彫刻や仕上げ加工,被覆加工などが容易となり,各種工芸品,工芸家具,工具類の柄,印材などへの利用が検討されています(新潟県工業技術総合研究所ほか). (MI)
Q. グリーン材,KD材とは何のことですか?
A. グリーン材は英語のGreen Woodの略で,一般的には伐採直後の木材のことです.乾燥現場では丸太から製材された多くの水分を含み,まだ乾燥過程を経ていない木材をさし,日本語では生材とも言われています.なお,丸太のまま長期間にわたって放置され既に乾燥が始まっている場合もありますから,具体的に含水率何%以上の木材をさすかは限定されていません.
KD材はKiln Dry Woodの略で,乾燥機(Kiln)を用いて人工的に乾燥させた木材を意味します.天然乾燥(Air Dry)だけの木材は厳密に言えばKD材には当たりません.近年外国から多くの木材が輸入され,その梱包に「KD」という表示をよく見かけます.これらの木材は,人工乾燥処理済みであることがわかります.
日本では,木材の乾燥程度を日本農林規格(JAS)によって規定しています.建築用針葉樹製材の乾燥度を,含水率によって三種類に区分しています.すなわち,含水率25%以下をD25,20%以下をD20,15%以下をD15とし,これらの記号・数値が表示されている柱材などを見かけることがあります.
従来の木造住宅建築では,製材して間もない乾燥の不十分な木材が多く使用されてきましたが,近年強度や寸法精度の高い構造用材料の要求が高まり,乾燥材が次第に普及しつつあります. (YT)
Q. なぜ木材の乾燥が必要なのですか?そのメリットは何ですか?
A. 木材は乾燥すると寸法が縮む性質があります.私たちが生活する住宅では,新築後まもなく柱と鴨居,柱と敷居の接合部分に隙間が生じたり,板張り壁の継ぎ目が透いたり段差ができたりします.きれいな柱面に割れも出たりします.また,建築後しばらくすると,釘や接着剤で留められている床材や階段の踏み板がずれて,歩くたびに床鳴りがしたり,さらに時間が経過すると,ドアやふすまなど建具類の開閉時にきしみを生じ,壁面のクロスに亀裂が入ることもあります.さらに,木材中の水分(多くの場合,弱酸性から強酸性の範囲を示す)で構造強度を保持する緊結金具を腐食させることも報告されています.これらのトラブルの多くは,木材中の水分および乾燥に伴う寸法変化に原因します.
昔は建築に多くの時間を費やしていたため,建築中に木材が乾燥していました.したがって,乾燥による寸法変化は建築中に修正できたため問題は発生しませんでした.近年は建築部材のプレカット化や合板やボード類による乾式工法によって建築工期が著しく短縮されたため,木材は未乾燥なまま建築が完了し,入居後に乾燥によって前述のトラブルが生じてきます.消費者からのクレームがあまりにも多いと,在来工法の木造住宅に対するイメージは大きく低下します.
製材業界が十分に乾燥された木材を流通させることによって,住宅のトラブルやクレームは減少し,木造住宅の信頼性回復と着工数増大,ひいては国産材需要の拡大につながります. (YT)
Q. 木材を乾燥させるのには,どんな方法があるのですか?
A. 木材に限らず物を乾かすには,水分を内側から外側に移動させる必要があります.水は高いところから低いところに流れるように,木材中の水分は蒸気として高い気圧から低い気圧に向かって移動します.したがって,木材の内側を外側よりも高い蒸気圧にする必要があり,このために外部から熱(「温度」)を加えて内部水分を加熱することによって蒸気圧を高めます.熱はこの駆動力を発現するために必要です.また,木材外周の空気圧を強制的に下げると木材内外で蒸気圧差を生じて水分が移動します.この方法を利用したものが減圧乾燥法です.
木材表面に移動した水分は容易に蒸発しますが,あまりに蒸発が激しすぎると表面が速く乾きすぎて内部との間に大きな含水率差を生じます.このとき木材表面に割れが生じることがあります.この割れを防止するには,表面蒸発を抑える,すなわち木材外周の「湿度」を調整する必要があります.さらに,温度や湿度を木材表面に均等に分布させて,均一に乾燥させるために適度の「風」も必要となります.
以上のように,木材を乾燥させるには「温度」と「湿度」と「風」が必要で,これらを乾燥の3条件と呼ぶことがあります.
木材を乾燥させる方法は,大きく2つに分けられます.一つは自然に存在する乾燥の3条件によって「乾く」天然乾燥法と,もう一つは人工的に機械で乾燥の3条件を作り出して「乾かす」人工乾燥法があります1).前者は自然の成り行きに依存するために,季節変動が大きく,乾燥の3条件が制御できないため割れなどの防止が難しく,計画生産も不向きな乾燥法です.一方,後者の人工乾燥システムを導入することで,時間の短縮と計画生産が可能となるため,現在乾燥機の導入が積極的に検討されています. (YT)
参考文献
1)河崎弥生:建築用針葉樹製材のための人工乾燥材生産技術入門-第2版-, pp.19-22(1996)
Q. 木材の人工乾燥法についてその現状を教えて下さい.
A. 近年木材の人工乾燥法についての質問で最も多いのは建築用針葉樹材への適用で,その中でも特に多いのはスギ材です.人工乾燥としては約90%が蒸気式乾燥法であり,その他が10%です.乾燥法別にその特徴と問題点をあげると,以下の通りです.
[1]蒸気式乾燥法
重油又は重油・木くず焚き併用ボイラーからの熱源を基に,乾球温度と湿球温度を制御しながら乾燥操作する方法です.従来は70~80℃の乾燥温度でしたが,乾燥時間の短縮を目的として最近では100~120℃で処理が可能な乾燥機の導入が多くなっています.なお,100℃以上で乾燥する方法を高温乾燥法と呼ぶこともあります.高温,高湿の基では設備の損傷が激しく,その耐久性が問題となります.最近導入される機械の多くは,コンピュータ等の電子機器の発達によって,乾球温度と湿球温度が自動制御され,乾燥の自動化が図られています.
[2]高周波・熱風複合乾燥法
高周波加熱と熱風乾燥を組み合わせた乾燥法であり,前述の蒸気式乾燥法よりも乾燥時間を短縮することを目的として開発されました.大容積の木材の乾燥,乾燥スケジュールの確立,装置価格の低減化に向けてなお一層の改良が加えられています.
[3]高周波加熱減圧乾燥法
高周波加熱と減圧乾燥を組み合わせた乾燥法であり,乾燥時間の大幅な短縮化が図られます.現在普及している乾燥法では最も乾燥時間が短いとされています.一方,装置価格が高く,乾燥中に電力を多く消費するために,ランニングコストが高くなるという欠点を有しています.現在,天然乾燥と連携して乾燥することによって乾燥コストの削減化が検討されています.
[4]熱風加熱減圧乾燥法
減圧缶の中に木材を入れて熱風で加熱し,その後減圧,大気圧に戻して再び加熱し,減圧する,この操作を繰り返すことによって乾燥を促進する乾燥法です.装置価格が高いことが問題点となっています.また,機密性の高い乾燥室からファンによって空気を排出することで乾燥室内を大気圧よりも幾分負圧にして乾燥する方法があります.後者の乾燥法を減圧乾燥法に分類するには疑問が残ります.乾燥時間は蒸気式乾燥法と同程度です.
[5]燻煙乾燥
大量に収容できる燻煙乾燥炉に丸太を置き,廃材等を燃焼させた空気を循環させながら乾燥させる乾燥法である.温度や湿度の調整がラフであるために割れが生じたり,また目的とする含水率まで乾燥するには至っていません.現在では,乾燥と言うよりも熱処理効果による丸太の材質改良に主眼が置かれる傾向にあります.なお,乾燥コストの観点からみるとメリットがあるため,今後木材乾燥用に積極的な技術開発が待たれます.
[6]その他
上にあげた乾燥法以外に一部実用化している乾燥法として次のものがあります.
・パラフィン液相乾燥法 ・太陽熱利用乾燥法 ・地熱利用乾燥法
(YT)
Q. スギを人工乾燥するのは難しいと聞きますが,それはなぜですか?
A. 建築用材に用いられてきたスギ材は,従来天然乾燥が主体で,人工乾燥はほとんど行われてきませんでした.人工乾燥する場合でも板材が主で,そんなに乾燥の難しい木材とは思われていませんでした.近年建築用構造材,特に柱や梁材への積極的な利用が叫ばれ,スギ材に対する人工乾燥の要求がにわかに高まってきました.しかしながら,乾燥過程で以下の理由によって乾燥の難しさが指摘されています.
[1]心材の含水率が高い
水分移動性の低い心材部の含水率が高い,特に黒心材でその傾向が顕著であります.また,品種や産地,生育条件,伐採時期によって含水率が約80%から約250%まで幅広く変動しています.そのため乾燥初期には各材の含水率のばらつきが大きく,これらを均一に乾燥仕上げをするには技術的に難しいのです.
[2]断面積が大きい
木材乾燥は材の厚さの2乗に比例して乾燥時間が増加します.例えば,3cm厚材の乾燥時間を1としますと,6cm厚材では3cmの2倍その2乗すなわち4倍,9cm厚材では3cmの3倍その2乗すなわち9倍の乾燥時間となります.建築用構造用スギ材は10.5cm角以上の材が多いため,板材に比べて材の内部から表面への水分移動に多くの時間を要することがわかります.
[3]心持ち材としての利用が多い
柱材では心(随)を含んだ状態で使用されることが多くあります.この場合,内側を含水率が高く,かつ乾燥の遅い心材が占め,表面は乾燥の速い辺材が占めるため,乾燥にアンバランスが生じて乾燥中に辺材表面に割れが出やすい.また,年輪方向と年輪に直角方向で収縮率が大きく異なり,収縮率の大きな年輪方向(円周方向),すなわち柱表面に割れが出やすい性質があります.著しく大きな割れは随にまで達し,かつ表面に長く入ります.さらに,心(随)の断面における位置の偏りによって縦そり等の狂いが生じることがあります.
以上,人工乾燥で目的の含水率まで乾燥させるには,長時間にわたって多量の熱エネルギーを投入しなければならないため乾燥コスト高となり,割れや狂い防止で乾燥操作に細心の注意を払う必要があるなど,スギは総合的にみて乾燥の難しい木材と言えます. (YT)
Q. 最近新しい乾燥法がいろいろと開発されたと聞きますが,どんな方法なのでしょうか?
A. スギ材を目標の含水率まで乾燥するには多くの時間がかかり,乾燥経費を販売価格に反映しにくいという問題があります.この乾燥経費を削減するための新しい乾燥法の開発が強く望まれ,多くの研究機関や企業で検討されてきました.現在実用化あるいは有望視されているのは,100℃以上の高温度域で木材中の蒸気圧を著しく高めて急速に水分を移動させる方法です.高温処理のため乾燥に要する単位時間あたりのエネルギーコストは高いものの,乾燥時間を短縮することによって単位容積あたりの乾燥経費を低減することを基本としています.加熱には蒸気,高周波,溶融パラフィン等が使用されています.
[1]高温乾燥法
100~120℃の高温蒸気に耐久できる従来の蒸気式乾燥機の発展型です.乾燥時間は従来の蒸気式乾燥の1/5~1/2に短縮でき,材面割れも少なく,ヤニの滲出防止効果も期待できます.一方,高温度で処理するために,収縮率の増大,曲がりなどの狂い,内部割れ等による歩留まり率の低下,変色や強度等の品質低下が問題となります.なお,同機で80℃以下の乾燥も可能ですが,装置の価格が高いのでこの温度帯域で乾燥すると逆に乾燥コスト高となります.
[2]高周波・熱風複合乾燥
木材中の水分を高周波で加熱する方法と熱風乾燥を組み合わせた乾燥法です.断面積の大きな木材,例えば柱や梁材などでは木材内部の水分が高周波によって効率よく加熱されるため,乾燥時間の短縮効果があります.一方,装置の価格が高く,乾燥中に多くの電力を消費するためランニングコストが高くつくという問題があります.装置の低廉化と高周波電力の投入時間短縮等乾燥スケジュールの確立が待たれます.
[3]パラフィン液相乾燥
高温で溶融するパラフィン液中に木材を浸せきし,木材内部の水分を加熱して蒸気圧を高めることによって急速に乾燥する方法です.約24時間で乾燥は完了できます.一方,高温処理のために内部割れの危険性が高く,乾燥後に木材表面に付着したパラフィンを除去しなければならなく,また乾燥で減少したパラフィンを補給するなど,乾燥に要する諸経費を総合的に検討する必要があります.
このほかにもセラミックによる遠赤外線乾燥,加圧容器による過熱蒸気乾燥,マイクロ波加熱乾燥等が提案されていますが,乾燥原理は前述の[1]および[2]に属します.
以上の方法は乾燥する木材の種類,寸法,使用目的に応じて使い分けする必要があり,すべての用途の木材にオールマイティではないことを付け加えます.いずれの乾燥機も高価ですから,導入に当たっては慎重に選択するよう心がけてください. (YT)
Q. スギ柱材を人工乾燥するために乾燥機の購入を考えていますが,装置を選ぶ場合どのような点に注意が必要ですか?
A. 乾燥機を製造している業界において現在まだ共通する機械性能の基準はできていません.したがって販売されている乾燥機・装置には諸性能にかなりの差があることが予想されます.
そこで,最低これだけの性能は保持されるべきであるという項目を以下に示しますから,機械を選定をするときの参考にしてください.
[1]乾燥機内の温度,湿度を設定値に調整でき,風速の分布が均一であること.
乾燥中に機内の温度と湿度が設定値に正確に設定でき,かつこの温度と湿度を機内全体にわたって均一に分布させるための風が必要です.もし風の強さにむらがあれば,乾燥機内の場所によって木材の最終含水率にばらつきが大きく,良好な乾燥仕上がりにはなりません.
[2]高温,高湿,酸性ガスに対して装置が耐久性に優れていること.
乾燥中装置は高温度,高湿度で,しかも木材から蒸散する強酸性の空気に長時間暴露されるため,壁体,モータ,配管,配線等に高耐久性の配慮がされていなければなりません.
[3]気密性や断熱性に優れていること.
高温による熱膨張で扉などが変形して気密性が低下したり,壁体の断熱性が低いために熱流出が大きいなど,機内からの熱エネルギーの流出防止のために高気密・高断熱性の構造になっているか配慮しなければなりません.
[4]ランニングコストと維持コストが安いこと.
ランニングコストに熱源コストの占める割合が高く,安価な加熱方法を採用していなければなりません.また,機械から出る騒音や煤煙などが周辺の住民に害を及ばさないような配慮がなされていなければなりません.
[5]保守管理や修繕が容易にできること.
小さな故障は近所の電気工事店や鉄工所等で修繕できることが望まれる.
[6]メンテナンスサービスや技術指導が充実していること.
乾燥機を導入している工場で最も多い苦情がメーカーのメンテナンスサービスが悪いことです.また乾燥がうまくいかない場合,乾燥スケジュールの変更等にも適切に対応できる技術指導の充実も必要です.
[7]安全性が高い.
機械の異常運転,火災の危険等安全性に十分配慮された設計になっていることが必要です.
[8]できれば自動運転が望ましい.
温度,湿度などを自動制御して運転できること.現在多くの機種がコンピュータによる自動運転機能を有しています.
なお,乾燥機を導入するにあたり,まず自社が主として乾燥する木材をメーカーに試験乾燥を依頼し,乾燥データを検討して,適切な機種であるか否かを判断してください.またすでに納入している工場に機械の性能を確かめて,判断資料を多く収集してください.
もしこれらのことができなければ,少なくとも近くの公設試験研究機関に相談することをお薦めします. (YT)