Q.桶も樽も木材でできていて,形もよく似ていますが,どこが違うのですか?
A.日本の桶も樽も幅方向に湾曲した部材を「たが」で留めるという構造はよく似ています.材にはスギやサワラが使われる点も同様です.
ところが,側面部材の木取りの仕方が違います.桶の側面にはまさ目模様が現れていますが,樽の側面には板目模様が現れているのです.このような木取りとなった理由にはいくつか考えられます.
一時的な容器として使われることの多い桶は,使用中は部材が吸湿し,使わないときは乾燥するというサイクルを繰り返すことになります.寸法変化をなるべく小さくするためにはまさ目木取りを選ぶことが理にかなっています(水分変化に伴う寸法変化は板目よりもまさ目の方が小さいからです).
また,桶は円周に沿って密度の小さい早材と密度の大きい晩材が交互に並んだ構造になっていますが,早材部分には水分をよく吸収します.そこで「おひつ」として使うと,ご飯の余剰水分を吸湿してくれて,おいしいご飯が食べられるということもあるかもしれません.
恒常的に水分を蓄えておくための容器である樽は,材が常に水分を十分に含んだ状態にあるので,寸法変化についてはさほど気にする必要はありません.むしろ,いかに内容物をしみ出さないようにするかが重要でしょう.板目木取りの部材だと,樽の外側に向けて密度の小さい早材と密度の大きい晩材が交互に並んでおり,晩材が水分滲み出しのブロック層として機能することが考えられます.
桶も樽も,長い経験に基づく,木材の特徴をうまく利用した技術といえます.
なお,ウィスキーの貯蔵樽にはまさ目木取りのホワイトオーク材が用いられます.なぜウィスキー樽ではまさ目材がもちいられるのかについては,板目木取り材だと乾燥が大変だからではないかという考えがあります
Q.板や柱にはなぜ節が現れるのですか?
A.節とは,丸太から板や柱を切り出したときに現れる枝の断面です.
木材はもともと樹木として生きていました.樹木は生きていくために光合成を行いますが,これを効果的に行うためにあらゆる方向に枝を伸ばし,葉を茂らせて,十分な日照を確保しようとします.つまり,節の存在は木材にとってごく自然な特徴といえます.
日本では節のない木材が好まれる傾向にあり,しばしば「無節信仰」といわれたりもします.節の数や大きさは材木の美観の判定項目にもなり,一般に節の少ないものの方が高額で取り引きされます.
ただ,最近では,比較的小さな節のたくさん現れたパイン材を用いた家具をよく見かけるようになりました.また,「木に節があるのは当たり前」と割り切って,地元産のスギやカラマツを安く仕入れて,内装材に使用した住宅も雑誌等で紹介されています.安物という固定観念が変化し,節の持つ自然さを積極的に活かそうという動きが活発化してきているのかもしれません.(MN)
Q.木材で囲まれた空間の湿度変動は何故少ないか?
A.文化財の保存にとって,湿度管理は重要である.
湿度変動によって,木製品など吸湿性の材料は伸縮し,その結果,割れ,狂いが生じたり,塗膜,絵の具類の亀裂,剥落が起こる.湿度が常に高いと,木製品,紙製品類は生物劣化を受け易く,金属製品は腐食し易い.
それを防ぐため,博物館,美術館などの収蔵庫の内壁面には木材が内装され,重要な文化財については,桐などの櫃内に保存されている.
この理由の一つとして,木材が湿度を調節する働きのあることが上げられる.木材は,吸湿性に富む材料で,周囲の温度,湿度条件に応じて,一定量の水分を保有している.周囲の温度,湿度が変化すると,木材が吸・放湿して,湿度の変動を緩和する.
住宅の内装材料においても,湿度調節の機能を備えていることが,結露,カビ汚損,ダニ発生などの防止のために重要である.(MN)
Q.ピアノやバイオリンの響板には何故トウヒ属の木材が使われるか?
A.木製の楽器類には,種類,部位に応じて,特定の樹種の木材が使用されている.バイオリンの表板やピアノの響板には,ドイツトウヒ,スプルース,アカエゾマツなどのトウヒ属の木材が使用されている.また,樹種に加えて,密度,年輪幅,材色などについて厳しい選別が行われている.
振動的な性質に限ると,これらの樹種の木材は,密度が比較的小さく,繊維方向の音速が大きく,振動の減衰が小さい特性をもち,したがって,振動のエネルギーが音のエネルギーに変換される効率(音響変換効率)が高いという楽器響板にとって有利な性質を備えている.
ギターやマンドリンの表板にもこれらの樹種が使用されている.和楽器である琴や琵琶の表板には,キリ材が使用されるが,この樹種も音響変換効率が高い樹種である.(MN)
Q.最近,ホームセンターなどでよく売っているレッドシーダー,アガチス,ファルカータとはどのような材ですか?
A.
- ホームセンターなどで売っているレッドシーダーはネズコ属のウエスターンレッドシーダー(ベイスギ)で,北米産の針葉樹材です.比重が0.35~0.4の心材が赤みを帯びた暗い褐色,木理が通直で,加工もしやすい材です.建築用造作材などの用途が多いですが,心材の耐朽性が高いので最近ではエクステリア(外構材)やガーデニング関係の材料によく使われています.(レッドシーダーにはこのほかスパニッシュシーダーなどのセンダン科の数種の熱帯産の広葉樹材がありますが,日本ではほとんど見かけません.)
- アガチスは産地によってはカウリ,ダマールとも呼ばれる,東南アジア・オセアニア産の針葉樹材です.比重が0.35~0.65の桃色を帯びた淡褐色の材で,木理は通直,加工は容易で表面の仕上げもよいですが,個々の材によって材質にはかなりの変動があります.用途は広く,造作,家具のほか,一般の工作に適しています.耐朽性は高くないので,湿気が多いところやエクステリア用材としては使わない方がよいでしょう.
- ファルカータは東南アジア産の広葉樹材で,地域によってアルビチア,センゴンラウト,バタイなどと呼ばれることがあります.比重が0.3~0.45の軽軟な淡色の材で,木理は交錯していますが,加工は容易で表面の仕上げもよいので,軽構造材のほか,一般の工作に適しています.耐朽性は低い材です.(TS)
Q.産直(産地直送)住宅は100%地元の木材を使っているのですか?
A.木造の住宅には種々の部材が必要で,それぞれに適した材質の種々の木材を使う必要があります.したがって全ての木材を同じ産地でまかなうことはできません.そこで必要に応じて他の産地の木材も使っています.一般に柱,梁,床などの主な部材は地元産の木材を使っていますが,2~4割程度は,外材を含めた他の産地の木材を使っていると考えるほうがよいでしょう.
Q.建築用材として国産材と外材とではどちらが優れていますか?
A.木造建築には土台,柱,梁,垂木,敷居,鴨居,床材など,種々の部材が必要です.それぞれの部材の機能(強さ,耐朽性,狂いにくさ,装飾性など)を果たすに必要な木材の材質は部材の種類によって違います.この機能を十分に果たすことができる性能を持っている限り,使用する木材は国産材であろうと外材であろうと優劣はありません.実際にどちらを選ぶかは,個々の材料の品質,価格,施主の好みによって決まることが多いようです.
Q.家具売場で「これは“突板(つきいた)貼り”です」とか「“天然突板貼り”です」という言葉を耳にします.突板って何ですか?
A.木材の角材を機械で削り出すことを突くといいます.ここから突いて削りだした板を突板(銘木突板,天然木突板)と呼ぶようになりました.
突板は一般に家具,キャビネット,建築物の内装用の装飾表面材に多く使われるところから化粧単板とも呼ばれています.
一般に突板の厚さは 0.15mm~1.2mm位まであり,0.5mm以下を薄単板,0.6mm以上を厚単板と呼びます.また,突板の中で杢目の美しい木,色のきれいな木,香のすばらしい木,形の珍しい木等化粧性に優れた木材を銘木突板といいます.
この突板は単板とも呼ばれ,天然化粧単板,天然銘木単板,天然突板単板は同じものを指します.(TN)
Q.床暖房に使用された木の床はスキやソリ,ワレが発生しやすいと聞きます.床暖房用の木床について教えてください.
A.床暖房方式には温水による床暖房方式と,電気による床暖房方式があります.以下はいずれの方法にも共通する内容です.
- 床暖房用床材について
住空間に利用される暖房形式には,熱の伝わり方によって次の3つに分類されます.
- 対流方式:温風暖房機などによるもの
- 伝導方式:足温器・電気毛布などによるもの
- 輻射方式:石油ストーブ・暖炉などによるもの
床暖房は,このうち伝導方式と輻射方式を組み合わせた暖房形式です.
2. 床暖房の特徴
床暖房時の床表面温度は普通25℃~30℃の範囲であり,その接触温は人体にとって快適温度となっています.
床暖房時の室内の垂直方向の温度分布は17℃~18℃で均一であり,温風暖房などにみられるような部屋の上部にゆくほど温度が高くなることは少ないのです.
燃焼ガスが発生せず,空気の汚れが発生しません.
床暖房に使用する木床の留意点
床暖房に使用する木床は,普通一般に使用されている木床に比べて,使用時の環境条件が異なります.
床材の表面温度は25℃~30℃ですが,熱源との接触界面では70℃~80℃の温度に上昇します.
実生活時に床材の表面が座布団などで被覆され,部分的に30℃以上の高温度になることがあります.
同一床面内で床暖房装置が敷設されている床面と敷設されていない床面(普通,部屋の床面積に対して70%前後の面積が敷設される)で表面温度が異なり,床暖房装置が敷設されていない床面に微細な表面結露が発生することがあります.
上記のように,温度や水分・湿度条件が,より過酷な条件下に曝されます.
木床の含水率について
床暖房木床は,床暖房使用時期には含水率3%前後,不使用時期(雨期・夏期)には含水率13%前後になります.床施工時初期の床材の含水率が低い場合は,その後の吸湿によって床材のツキ上げやふくれが発生します.また,初期含水率の高いものは,床暖房使用時期の放湿によってスキやワレが発生してきます.
このような吸放湿にともなう木床の伸縮挙動を少なくするために,木床を化学処理し,寸法安定化をはかることが一般的に考えられます.一方,製品の初期含水率8%前後(±1%)に管理し,吸放湿にともなう伸縮挙動を小さくします.すなわち,スキや伸びは発生しますが,それを目立ちにくくする工夫も,自然材として木床を使用するための経済的な方法です.下の表は床基材の各種材料を大枠でくくった含水率の変化に対する寸法変化率です.
各種床材料の吸放湿にともなう含水率1%当たりの長さ・巾寸法変化率
材 料 変化率%
ミ ズ ナ ラ 材
接 線 方 向 0.35
半 径 方 向 0.18
ラワン合板 9㎜ 3ply 0.016
M D F 9㎜メラミンタイプ 比重0.70 0.035
パーティクルボード9㎜メラミンタイプ 比重0.73 0.042
合板基材は最も変化率の小さな基材ですが,その含水率の幅管理が難しく,辺材と心材の混入や異樹種の混入などがあれば,製品内および製品間で含水率のバラツキ幅が3%~20%におよぶことがあります.そのため,合板基材を使用した床材は,挙動の安定した床材とそうでない床材とのバラツキが大きいのです.
MDF(中比重繊維板)などのエジニアリングボードは,吸放湿にともなう寸法変化率は大きいものの,製品内や製品間のバラツキがが少なく,商品としての含水率変化に対する安定性は期待できます.ただし,耐久性能から判断すると,床暖房用木床基材として使用可能な基材は耐久性接着剤使用の合板基材か,特定メラミンタイプのMDFに限られます.
木床の厚みについて
床暖房用木床の厚みは,薄いものほど表面温度の立ち上がり速度が速いため,熱効率が良く,経済的です.ただし,床材の厚みが薄すぎるため,次のような不具合が発生しないよう,工夫する必要があります.
床暖房装置の不具合(装置間のスキや装置の波打ちなど)が表面に映出しない厚みであること.
床暖房装置が温水マットのような柔らかい装置の場合,歩行時や生活時に不快な柔らかさを感じさせない厚みであること.
床材自体の厚みの薄さによって,反りやねじれ・ワレなどの発生がない厚みであること.
木床の巾・長さ寸法について
床暖房木床は,普通一般に使用する木床に較べて吸放湿による伸縮変化が激しいのです.木床の巾・長さの寸法を小さく分割することにより,伸縮にともなって発生する応力を緩和させ,反り・狂い・ねじれ・スキ・ツキ上げなどを目立たなくすることができます.ただいたずらに寸法を小さいものは床材としてのデザイン性を欠いたり,施工性を悪くしますので注意を要します.
木床の施工方法について
木床固着用接着剤は,熱変化(0℃~80℃) の繰り返し劣化の少ない接着剤を選択してください.また,上貼型の場合は床暖房装置の表面材が,木質・金属・プラスチックなど装置メーカーによってその表面材が異なるため,いずれの被着材であっても良好な耐久性のある接着剤を選択してください.接着剤の選択の誤りによって,床が浮いたり,スキが発生したり,接着界面で床鳴りを発生させることが多くあります.
木床の表面仕上げについて
表面仕上げ塗料及び着色剤は,熱変化による劣化の起こりにくい塗料・着色剤を使用してください.
着色剤の選択の誤りによって,初期の色が熱によって変わってくることがあります.また,一般の床材よりも表面にヒビ割れが発生しやすいので,ヒビ割れ防止処理の床材を使用することが大切です.
床暖房用装置の選択と床下地及び下地組について
床暖房用木床としてその性能は保持されていても,下地となる床暖房用装置の品質不良のため,ふくれ・波打ち・はがれ・床鳴りなどの不具合や床暖房用装置を支える床下地基材の劣化変形(凹凸)が床材表面に現れたり,更に最下層の大引・根太組が床暖房によって乾燥収縮し,壁面・敷居と床材とのとり合わせに大きなスキを発生させたりすることが多くあります.
床暖房をする場合は,
床下地組の材料は乾燥材を使用するしてください.
床面と壁面・敷居のとり合わせは,床材の伸縮による『逃げ』をあらかじめとっておいてください.
床下地材は耐久性のある床下地材(乾燥した板材または耐久性接着剤使用の合板など)を使用してください.
床下地材の施工は床下地材の吸湿にともなう伸び量のスキをあけて施工してください.
品質の安定した床暖房装置を正しく施工してください.
床暖房用に設計された木床を使用してください.
すなわち,床暖房では床全体をそれに適した部品・部材・施工法を採用し,床仕上げをすることが最も大切なことです.(TN)
Q.突板製品の表面にヒビワレが発生することをよく聞きますが,突板製品の表面ヒビワレがなぜ起こるのですか? 教えてください.
A.木材は,大気中の湿度変化に伴い,吸湿,放湿を行い,同時に伸縮をおこします.この繰り返しの急激な変化時に,割れ,裂けの現象が発生します.この割れ,裂け現象が製品の表面に発生したものをヒビワレと呼んでいます.
その形状は概ね,巾 0.5mm~1.0mm,長さ 10mm~50mm程のものが多いのです.ヒビワレの形状はいろいろな型に分類されますが,実際使用上問題となるヒビワレの形態は表面にもり上がりのあるものです.これは突板の下地に使用されている合板基材の表板の裏割れが乾燥により大きくなって表面突板にワレを発生させるものがほとんどです.
これに対する具体的防止策としては,
- 合板の表板の繊維方向と,表面の化粧単板との繊維方向を直交する様な製品構成したもの
- 合板の表板と,化粧単板の間に,紙または不織布のような層を挿入し,合板の表板の動きと,化粧単板の動きに対するクッション層を設け,合板の表板の影響を受けないようにしたもの
- 製品そのものを吸湿,放湿によって寸法変化が発生しないように化学処理を行ったもの
- 下地に合板以外の基材,例えばMDFなどを使用したもの
などがあります.
それ以外にヒビワレの発生は突板と基材(合板やMDF)との接着が弱いため,突板が浮き上がって発生したり,表面塗料の選択が誤ったため塗料が割れてヒビワレが発生することもあります.(TN)
Q.木材を日光や雨のかかるところに置いておくと,色が変わったり表面が粗くなってきます.どうしてですか?
A.木材はその化学構造から非常によく太陽光を吸収する物質です.しかし化学成分によって吸収する光の波長が異なり,セルロースは太陽光に対して比較的安定ですが,リグニンや抽出成分は紫外線を吸収しやすい構造をもっています.リグニンは光分解反応によって低分子化し,その多くは水に溶ける形になります.そのため雨水によって容易に木材表面から溶けだし,それによってさらに内部も光分解を受けることになります.
結果として柔らかい早材部分を中心に分解が生じ,洗い出したように表面が粗くなってきます.これを風化と呼んでいますが,針葉樹の早材部の風化速度は100年間でおよそ5mm程度といわれています.また,風によって運ばれる砂や塵などによっても木材表面は傷つくため,海岸部の住宅の下見板などは大きな風化を受けます.
屋外に置かれた木材は,初期の段階では濃色の材は明色化し,淡色の材は暗色化する傾向にあります.その後,薄い灰色からカビの付着による黒色のシミが発生し,これが増加して最終的には全ての木材は樹種に関係なく暗灰色化してきます.塗装は木材の耐候性を向上させますが,透明系の塗料は紫外線を通過させるために顔料を含んだものに比較して塗膜劣化を起こしやすいといえます.(YI)
Q.KD材とは何ですか?
A.乾燥された製材品(板材や角材)のことです.
KDはKiln Dryの略で,乾燥機で含水率25%以下に乾燥させた木材をさしますが,日本農林規格(JAS)では,25%以下,20%以下および15%以下の三種類に区分されます.
従来の木造住宅の建築では,製材して十分乾燥しない状態の木材が使用されてきましたが,近年,強度や寸法精度の高い構造用材料への要求が高まりつつあり,変形や寸法変化の少ないKD材が普及しつつあります.(YF)
Q.材料名が「天然木 新カヤ」とかかれた碁盤を見かけました.樹種はなんですか?
A.最初に結論を言えば,「新カヤ」はカヤではありません.
新力ヤ(榧)として売られている碁盤はスプルースです.榧とは全く違う材料に新カヤという別名を付けているのですから,きわどいネーミングです.
同様に「ケヤキ風」とか「ケヤキ調」とか称して販売している上りかまち,フローリング,銘木類もその大部分は,杢目はケヤキに似ているものの,ケヤキではなく,ハリギリ・俗称センに着色したものです.「風」とか「調」という文字を付けて,ケヤキであるとは言っていないわけですが,実際の取引の時にはケヤキだということが強調されるわけです.
また,南洋桜と称して流通しているモアビ(アフリカ産)やニァト(東南アジア)などは,材色や杢目がサクラに似ているので南洋桜という新しい名前で,流通しています.
このようなネーミングは,輸入木材には極めて多くの例があります.現地名では馴染みがないので売れない,国産の銘木の代替え品として利用されている,などの理由からのネーミングだと思われます.(MM)
Q.アラスカヒノキは日本のヒノキと同じ物ですか?
A.アラスカヒノキと称される木材は,ヒノキではなくて「ホワイトスプルース Picea glauca」という樹種だと思われます.
マツ科の木でエゾマツやトウヒと同じ仲間です.日本でも建築用材や家具や楽器作りの材料によく使われています.木目や色がヒノキに似ているので,輸入商社や木材業者が「アラスカヒノキ」と言う名前にしたのだと思います.
外国から木材を輸入する場合,日本で馴染みの無い木だと売れないので,みんなに分かりやすい名前をつけることがよくあります.
例えば「ベイスギ」は,別名「ウェスタンレッドシーダー」とも言われ木目や色が天然の秋田スギにそっくりです.でもこれは,スギではなくて,ヒノキ科のネズコの仲間「Thuja plicata」です.
木造住宅に頻繁に使われている「ベイマツ」はアメリカではダグラスファー(Duglas fir)と呼ばれていますがモミ(fir)でもなければマツでもなくてトガサワラの仲間(Pseudotsuga menziesii)です.しかし,木目や色は日本のマツにそっくりです.(MM)
Q.例えば,ヒノキとスギは,見た目ではよく似ているが,圧縮,引っ張り強度で区別されていますね.同じような樹種でも強度が異なるのはなぜ?
A.木材の強度は,主に比重(密度),組織構造によって決まります.ヒノキはスギに比べ仮道管が長く(ヒノキ3.5mm,スギ3.0mm),比重も大きい(ヒノキ0.44,スギ0.38)ので強いのです.(KA)
Q.木材(特に伐採直後)を水中に貯蔵すると乾燥しやすくなると言われますが本当?
A.木材を乾燥し易くするには,水蒸気の抜け道を確保してやる必要があります.すなわち,通気性をよくする必要があるわけです.
マツの場合,樹脂が詰まって通気性を悪くしていますが,水中貯木により樹脂と水が入れ替わり,通気性が良くなって乾燥しやすくなります.
その他の樹種でも,水中で活動する細菌が細胞壁の一部を破壊するため通気性がよくなって,乾燥しやすくなります.(KA)
Q.木材(特に伐採直後)を水中に貯蔵すると乾燥しやすくなると言われますが本当ですか?
A.昔から樹液出し(あくだし)といって伐採した木材を水中に入れて貯蔵したり,筏流しの際に木材を水中に浸してきました.近年水中貯蔵と乾燥の関係が検討され,水中貯蔵の期間中に辺材に細菌が進入し,細胞壁の一部が破壊され,これによって通気性の向上がみられ,乾燥の改善につながると指摘されています.なお,心材ではこの効果はみられないようです.
一方,古い書物1)には,辺材部に泥水等が進入し,変色や光沢を減ずるために,使用する場所によっては問題があると指摘されています.す.
ところで,辺材部分は細胞壁が細菌で破壊されなくても水分は容易に移動する性質があります.長期間の水中貯蔵で逆に水分移動の難しい心材部に水分が入ることによって含水率が高くなり,その後の人工乾燥で乾燥コストを押し上げることが懸念されます.
したがって,旧来から言われている工芸的な用途の木材には水中貯蔵は向いているかも知れませんが,辺材の色や光沢を重んじるスギ,ヒノキ等の針葉樹建築用材には幾分問題があるのではないでしょうか.木材乾燥の観点から考えると,水中貯木処理で乾燥時間は明らかに短縮しますが,貯蔵の場所や貯蔵時間(貯蔵時間に相当する時間内に高い含水率のスギ材でも天然乾燥で目的の含水率まで乾燥できます),作業量,材質変化等多くのことを総合的にみると問題が多く,今後検討を要します. (YT)
参考文献
1)農商務省山林局:木材の工芸的利用,pp.127-126(1912)
Q.最近,木炭の床下調湿材が注目されているようですが,いかがでしょうか?
A.これは,床下環境の湿度を低下させることによって,高湿度条件を好むカビや腐朽菌あるいはシロアリの発生を防ごうという意図で行われます.
実際の住宅について,木炭調湿材を敷設した場合と敷設しないケースについて,長期間にわたり床下気象環境を測定する実験が各地で行われました.その結果,地域性,住宅の構造,敷設方法などによって明らかな差異が観察されるときと,顕著な違いが認められない場合がありました.しかし,いずれにせよ,木炭を敷設してからの年経過とともに床下環境は改善されているのは事実です.
木炭は水を浄化するはたらきや脱臭作用をもっていますが,吸着性能は炭化温度によって大きく影響されます.床下調湿材としての木炭は,500~600℃で焼いたものが推奨されています.大きさは数mm~5mm程度のものが良いようです.
木炭は,最初の乾燥重量の10%あるいは報告によっては20%まで水分を吸着することが可能で,また,容易に放湿し,繰り返し吸湿と脱湿が可能であるという特徴をもっています.このことも住宅の床下環境の制御材料としての木炭が有利な点です.また,木炭の低い熱伝導率(約0.06Kcal・hr・℃)も,床下の結露防止に寄与しているといえます.(YI)
Q.木酢液はどんな効果があるのですか?
A.木炭を焼きますと,出発重量の約1/3の割合で木酢液が得られます.炭焼きの時に発生する煙は,木材の熱分解によって生じるガスを含んだ水蒸気ですが,この煙を冷却すると凝縮されて液状の木酢液となって出てきます.
木酢液には,酢酸に代表される酸類や,アルコール類,フェノール類,アルデヒドやエステルなどの中性物質など約200種類以上の数多くの化合物が含まれていますが,主要な成分は約50種類程度です.木酢液は,原材料や製造方法,炭化の温度によっても性状が異なるといわれています.
木酢液は,食品加工用の燻液,土壌改良剤,植物活性剤,消臭剤,除草剤など広い用途に展開がはかられています.
木酢液は植物の発芽と成長を促進するはたらきがありますが,ただ,成分の中には逆に阻害するものも含まれています.そのためには,静置などの精製操作によって阻害成分となるピッチやタール,フェノール成分を少なくすることが必要です.また,適切な施用濃度と量に注意する必要があります.葉面散布する場合は薄めにして,土壌に散布する場合には少し濃いめにするとよいでしょう.
木酢液の抗菌作用も注目されており,灰色カビ病,白サビ病,べと病などの植物の病気や,ハダニ,アブラムシ,カイガラムシなどの害虫,あるいは土壌線虫にも効果があることが知られています.これらに対しては,20~200倍程度に薄めて散布するとよいでしょう.木酢液の特有のにおいには,ムカデ,モグラ,ネコなどの小動物を忌避させる効果があるともいわれています.ただし,散布した付近は独特のにおいがすることを覚悟しなければなりません.
木酢液については,性能を安定させるための規格も整備されてきていますが,含まれる成分の種類が多いうえ,原料や炭化方法あるいは保存状態によってもその組成は変化しやすいものです.いずれにせよ漢方薬的なファジーさを含んでいると考えるといいでしょう.(YI)
Q.木炭が高級な調理用燃料とされているのはどいうわけでしょうか?
A.世界で使用されている木炭のいろいろな用途のうち,やはり燃料として用いられる割合がもっとも多いのですが,これには暖房用などの生活燃料に使われるもののほか,炊事の用途に用いられるものが含まれています.わが国では,うなぎのかば焼きなど高級料理用の燃料として木炭が大変好まれていますが,この理由は1g当たり7000カロリーという高い発熱量のほか,煙や炎あるいはいやな匂いがでないこと,ウチワ1本で400~1000℃まで自由に温度調節できるということでしょう.
わが国の木炭のつくり方には,白炭と黒炭の2種類があります.白炭がカシ,ナラなどの堅木を原料とし,一方の黒炭がクヌギ,マツなどの軟材を原料とするほか,炭窯のつくり方によって最初の炭化温度が白炭の方が低くなるようにし,低温度域で刺激臭の有機性ガスを溜出させるようにします.また,両者の大きな違いは炭化の最終段階にあって,白炭の場合では空気を導入して温度を1000℃付近にまで上げ,その後消子で消火しますが,一方の黒炭では密閉したまま自然冷却して取り出します.
黒炭は白炭に比べはるかに火つきが良く,発熱温度も高いという特徴を備えています.しかし,白炭,その中でもウバメガシを原料とした備長炭が調理用の最高級炭とされているのは,固い,燃え方がおだやかで火力が強い,火もちが良い,ガス分がないということのほか,魚の焼き物などに最適の加熱温度である300℃付近で熱効率の良い赤外線を多く発生するためといわれています.
学問的に考えますと,白炭がもっているこれら究極の調理炭としての特徴は,最終段階で1000℃付近の高温に達するため,炭素化反応が進行することによって黒鉛微結晶に近い3次元構造が徐々に形成されてくることのほか,水素などの成分の含有率が低いためと考えられます.(YI)
Q.木表,木裏て何ですか?
A.例えば今,杉の丸太があるとしましょう.それから厚み10mmの板目の板(中心の髄を含まず)を製材した場合,板の樹皮側の面を木表(木に日光の当る側.表側),板の髄側の面を木裏といいます.
乾燥された板であっても長い間使用していると,木表側を凹に木裏側が凸に反りがちです.
従って,和室の天井板(昔は杉の無垢材が使われていた)において,室内側に木裏を使うと,住んでいる人を圧迫するように室内側に凸に反ってきます.それがきらわれて,必ず室内側に木表がくるよう,施工されるようになりました.
その為,突板製品であれ,プリント製品であれ,天井板は木表の柄になっています.(TT)
Q.一般のツーバイフォー住宅に使用されているS-P-F材とはどういう性質をもっているのでしょうか? ウッドデッキに利用しても大丈夫でしょうか?
A.S-P-F材はスプルース・パイン・ファーの3種類の材をひっくるめて言う材のことで,SPFという樹種はありません.アジア人と呼ぶ中に日本人と韓国人と中国人とあるようなもので,いやこれらの人種は違うといっても欧米人から見るといっしょに見えるという類のものです.このSPFという材はカナダの中部に産する木ですが,特徴としては適度に柔らかいので(日本の杉と桧の中間というところです)釘打ちがしやすく,狂いも少なく,また中部から貨車で運んでくる必要性から人工乾燥しています(貨車は重量当りの料金を取られるので乾燥して軽くする方が得).この人工乾燥のお陰で,取り付け後のゆがみやそりがなく,日本におけるツーバイフォー工法のほとんどはこの材を使うようになりました.
欠点は水には弱い木ですので,デッキ等に使うとすぐに腐ります.日本で一番流通しているツーバイフォー材ですので,どこのホームセンターでも販売していますが,販売員の方に木の知識がなく,この木をデッキに使って「防腐塗料を塗れば長持ちします」とか言ってデッキ材として売っています.我々から見ると恐ろしい限りです.
この前もカナダのメーカーの社長が「日本のホームセンターでSPFをデッキ材で販売している.信じられない・・・」と言っておりました. (KN)
Q.西岡さんの『木に学べ』という本の中に,『のこぎりというのは最近できたもので,昔(飛鳥時代)はすべて木を割って建物をたてた』という内容のことが書かれています.ひとつ疑問に思ったのですが,飛鳥時代の大工さんは,木を切る道具がなかったから割って建物を作ったのでしょうか?
A.わかりません.いろいろ考えられることがありますが,切る道具自体の性能が悪かったのかも知れません.また長手方向(繊維方向)に切るとなれば割った方が効率がいいです. (KN)
Q.ウォーター・フロント周辺のウッドデッキにはどのような木材がよいでしょうか?
A.お勧めは次の2つです.
- サザンイエローパインの防腐注入された材を使う.ただし,日本で防腐注入するとJASの土台のグレードでしかしないため,日本の規格より格段に厳しいアメリカでの注入材を使用します.これが価格的には一番安い方法です.
- 価格的にはアップしますが,アフリカ材のボンゴシを床下構造材に使って,床板をブラジル材のイペを使う方法があります.この方法は防腐剤を使用しないので,官庁関係の仕事にはよく使われますが,非常に硬い木ですので,施工費用が高くなります.
上記2つについてはそれぞれ長所短所が他にもあるので用途によって使い分けが必要です. (KN)
Q.「パイン」と呼ばれている木材ですが,北欧産のアカマツ全般を指しているのでしょうか? はたまた輸入材のアカマツがそのように呼ばれているのでしょうか? 国産のアカマツでもパインと呼ばれるのでしょうか? よく輸入住宅のカタログなどに床はパイン無垢を使用などと書かれていますが,正確な定義などあるのでしょうか?
A.パイン材という言葉の意味だけで言うと松ですから国産の松でもアメリカ産の松でもヨーロッパ産の松でもかまわないということになりますが,一般的な意味で言うとパイン材と呼ばれているのは欧州赤松と呼ばれる北欧産の松のことを言います.しかしこの一般的というのもここ5年ぐらいのことです.
それまではあまり欧州赤松は日本には入っていなかったのでパイン材という呼び名は一部の業者の方だけが使っていた言葉でした.国産の松の場合,日本住宅の梁に使われる赤松黒松は「地松」という呼び方をされます.これは対するにアメリカ産の「米松」と区別するために慣習化したものと思います(実際には米松と呼ばれている木は松ではなくダグラスファーと呼ばれる木ですが).また,日本でたくさん植林されているカラ松はパインではなくそのまま「カラマツ」と呼ばれています.
日本に入荷される松で多いのは2×4建築の構造材のSPF(この材はスプルースとパインとファーの混合して生えているカナダ内陸産の材種をひっくるめて略して呼ばれます)というカナダ産の材種です.この木はどこのホームセンターでも販売されている白っぽい木です.また,アメリカ産のサザンイエローパインと呼ばれる,家具とか防腐されてデッキとかに使われるパインもよく見かけます(強度があるのでボーリング場のレーンに使われたりしています.少し黄色い年輪のはっきりした木です).最後に欧州赤松です.これらがパイン材の輸入御三家と言うところでしょう.(ラジアータパインと呼ばれるニュージーランド産の松もありますが,これは内装材にはほとんど使われていません.)
しかし輸入業者によっては他意はなくカナダ産のものもアメリカ産のものもパインと言う名前で販売しているところもあると思います.我々専門業者では間違えるといけないので必ず,本来の樹種名を言いますが,建材メーカーさん等は長い名前になったり分りにくい名前を嫌うので単純に「パイン」で済ませているところが多いのが実情です.ですから輸入住宅でヨーロッパからの輸入住宅の場合はフローリングにパイン材使用と書いてあれば欧州赤松と考えて間違いありませんが,カナダ・アメリカからの輸入住宅の場合はパイン材と書いていれば,SPF材のことだと思います.(カナダのSPF材は安いのでアメリカへもたくさん輸出されています.)
以上がパインの説明ですが,施主様からパイン材を指定されたとしたら欧州赤松を使っておけば間違いはないと思います.(商品的には出回っていますし,品質も安定していますので無難です.) (KN)
Q.木材の含水率が高い場合の対処方法は人工乾燥がメインかと思いますが,通常,製材所ではその設備を併設しているものなのでしょうか? また,たとえば住宅1棟分(40坪と仮定)で乾燥期間と費用はどれくらいでしょうか?
A.大規模製材所などでは最近設備を持っているところが増えてきましたが,通常は設備を置いているところは少ないです.住宅1棟の材料だけを人工乾燥するということであれば無理です.人工乾燥する場合は同じサイズの物ばかりを一旦桟組みして2ケ月ぐらい天然乾燥してから乾燥室に約1週間ぐらい入れますが,柱ばっかりをまとめて一度に乾燥させるとかの設備ですので,小口の対応はできません.
もし柱は柱で人工乾燥したところから購入し,梁は梁で別の製材所から人工乾燥したものを購入するということであれば,人工乾燥したものを手に入れるわけですから,期間はなしになります.費用は約15,000円/m3ですからもし20m3の木材を家一軒に使うとすると30万円のアップになります. (KN)
Q.屋外で使用したいあずま屋に向く木材にはどんな種類がありますでしょうか? また注意点などがございましたら教えていただけますか?
A.いくつかの答えがあります.価格と雰囲気と耐久性のバランスが問題です.あずま屋の場合は基本的に垂木や桁に雨がかからないので,雨がかかったり地際の常時湿潤になる柱の材を何にするかがポイントになります.通常は次のようにしています
・価格を安くしたい場合:加圧注入防腐されたスギを使用します.これより耐久性は劣りますが,ヒノキの磨き丸太を使うこともあります(この場合は完全に和風になります).
・耐久性を重視する場合:金属の柱に木材をラッピングします.この場合には,ある程度耐久性があり狂いが少ないことからレッドシダーやレッドウッドが使われます.デザインと取りつけ方法のバランスが非常に大事になりますので,通常は専門業者が設計します.
以上をまとめますと,
・柱に使われる材:スギの防腐処理材(角材・丸加工材),ヒノキ磨き丸太,レッドシダー,レッドウッド,金属心材に木材のラッピング
・桁や垂木材:スギ材(柱のついでに防腐処理することが多い),レッドシダー,レッドウッド,ベイツガ(米栂),ベイマツ(米松).ヒノキ(桧)の場合は桁にすると非常に高いので使っても垂木のみです. (KN)
Q.スウェーデン,フィンランドを主な産地とするレッドウッド(パイン)の日本名称を教えてください.ヨーロピアンレッドウッド,欧州アカマツとは別の樹種になるのでしょうか?
A.ヨーロピアンレッドウッドは欧州アカマツと同じで日本でいうレッドウッドとは異なります.属が異なります. (KN)
Q.心持ち材は強いと聞きましたが,本当ですか?
A.一部の木材店や大工さんの中には「心持ち材は強い」という人がいますが,構造材として使う場合に,心持ち材と心去り材のどちらが強いかは一概にはいえません.これは木材の強度を決める因子は多く,心持ちか心去りかはその因子の一つに過ぎないからです.
ここで樹心付近の木材の特徴を述べておきましょう.まず濃色の心材と淡色の辺材とでは耐朽性(腐り難さ)に違いがあっても,強度には影響しないと考えてよいでしょう.強度に影響するのは心材と辺材の違いではなく,樹心付近にできる未成熟材です.未成熟材とは,髄から10~15年輪までの樹心に近い部分の材で,それ以降にできる成熟材と違って繊維細胞が短く,強度が低い材です.
現在,市場で流通している人工林で成育したヒノキやスギでは,成育の初期から日当たりのよい条件で育ちますから,樹心付近で年輪幅も広く,製材品中で未成熟材の占める割合が多くなり,むしろ強度が低くなる傾向にあります.したがって,必ずしも心持ち材が心去り材よりも強いとはいえないわけです. (TS)
Q.木造住宅の柱に使う樹種は,地域によって異なると聞いていますが,具体的には,どの様な樹種が使われているのでしょうか?
A.在来工法の木造住宅の柱には通し柱,管柱,間柱があります.通し柱と管柱は構造材ですが,これらの間に立てる間柱は壁材料を支える下地材と考える方がよいでしょう.通し柱と管柱は,一般に軽くて強く,通直な長い材が得られる針葉樹材を使います.全国的にみてヒノキ,スギ,ベイツガなど使うことが多いようですが,地域によってはヒバ,カラマツ,エゾマツ(とくに北海道)などが好まれることがあります.このほか,現在では無垢材より品質が安定している集成材(集成柱)も使われています.集成柱には最近ではスギ,スプルース(ホワイトウッド)が約7割を占め,そのほか各種の内外産針葉樹材を使っています.和風建築では材の装飾性も同時に重視するので,柱材として木肌の美しい木を使いますが,ヒノキ,スギなどの化粧単板などの貼った集成柱も使います.間柱にはスギ,ベイツガ,マツ類などを使います.
このほか柱としては,一部の住宅にみられる大黒柱にはケヤキなどのような重硬な材を使います.また床柱は全くの装飾材で,強度には関係なく装飾性が高いスギの磨き丸太や銘木類を使います. (TS)
Q.MOE,MORとは何ですか?
A.MOEおよびMORは,それぞれModulus of ElasticityおよびModulus of Ruptureの略語で,弾性率および曲げ破壊係数のことです.弾性率は材料の変形のしにくさを表す値で,応力-ひずみ曲線において,ひずみの小さいところにおける直線領域での勾配に相当します.弾性係数ともいいます.曲げ破壊係数は,曲げ強度あるいは曲げ強さとも呼ばれ,材料の強度を表し,曲げ荷重を受けて破壊した時の応力にあたります.変形しにくい材料は,強いと思われるかも知れませんが,例えば,ガラスのようにMOEが大きくてもMORは小さい,すなわち脆い材料もあります.この点に関して,木材では一般に曲げ弾性率,曲げ強度ともに比重の増大に伴って増大するため,曲げ弾性率と曲げ強度の間に良好な正の相関関係が存在します.この関係を利用して非破壊で測定できる弾性率から強度を推測する機械的強度区分が行われます. (TS)
Q.強度等級区分法について教えてください.
A.強度等級区分法には,目視等級区分法と機械的等級区分法があります.前者は,集中節径比,繊維走行,割れ,変色などから品質を区分する等級区分法です.これに対し,後者は材料の強度推定に役立つヤング率(弾性率)などを非破壊的に測定し,それに基づいて,自動的に強度等級を区分する方法で,視覚的に検知できない強度因子の影響も評価できるため,比較的高精度で強度区分を行うことができます.機械的等級区分を目的として木材のヤング率を測定する機械をグレーディングマシンといいます.求められたヤング率によって,E110あるいはE130などの等級区分を行います.E110は,ヤング係数が100~120×103kgf/cm2にあることを示しています.樹種ごとに,ヤング率と強度の関係を明らかにし,それに基づき,基準強度や許容応力度で区分した材を,MSR材あるいはE-rated材と呼びます. (TS)
Q.最近「圧縮木材」や「圧密化木材」という言葉を聞きますが,どのようなものですか?また何に利用されるのですか?
A.木材は中空のセル構造体であるため,繊維と直角方向(横方向)に容易に圧縮することができます.木材を横圧縮成形することを圧密化,圧密化した製品を圧縮木材,圧密木材などと呼びます.
木材の圧密化技術の歴史は古く,今世紀前半には,ブナやカバ材を高温圧締した圧縮木材(リグノストーンなど)が実用化されています.最近では,国産材や環境問題が引き金となり,スギ材などの軟質材の強度性能,加工性能,意匠性の向上を目的とした研究・開発が盛んに行われています.含水率,温度を傾斜させ,製材の表面層のみを圧密化した表面圧密化木材,丸太を二軸方向から圧縮して角材に成形する技術(奈良県林業試験場ほか),木材表面に金型の模様を転写する表面加飾技術(静岡県工業技術センターほか),丸太を静水圧下で圧縮して人工シボ丸太を製造する技術(マイウッド(株))なども開発されています.
圧密化によって,木材の表面性能が飛躍的に向上するため,スギ材などの早生樹に代表される軟質木材を,硬質広葉樹材の代替材料として利用することが可能となります.表面層圧密化技術を利用した床材の開発,圧密化した単板をWPC化する技術(大建工業(株)),水蒸気前処理圧密化単板を化粧用突板と基材の間に挿入した床材なども発表されています.この他,スギ圧縮木材を利用して,テーブル,学校用学習机,和机などの天板が試作され(大分県工業技術センターほか),木製サッシ,敷居,鴨居のレール部分に,耐磨耗性に優れた圧縮木材の利用が検討されています.
圧密化による密度増加に伴い,曲げヤング率,曲げ強さなどの強度性能が向上するため,圧縮木材は,住宅内装用手すり,家具のフレーム用材料など,高い強度性能が要求される部材として利用できます.また,手すりのコーナー部,背もたれや脚部などの湾曲部についても,圧縮成形と同時に曲げ成形する技術が検討されています(山本ビニター㈱ほか).この他,樹脂含浸単板を積層圧密した強化単板積層材を木質構造物の接合部材(接合板,ドリフトピン)に用いる研究が行われています.
圧密化によって材料の重硬感が増し,熱処理などによる変色も加味して,高級感が増長されるため,慢性的な材料不足から高価で入手が困難なコクタン,ローズウッドなどの高級木材の代替として圧縮木材が利用できます.木材は,本来,不均質な材料ですが,圧密化すると,密度の小さい部分から変形するため,材質が均質化します.これによって,切削加工,彫刻や仕上げ加工,被覆加工などが容易となり,各種工芸品,工芸家具,工具類の柄,印材などへの利用が検討されています(新潟県工業技術総合研究所ほか). (MI)
Q.「曲げ木」って何ですか? 電子レンジを使って,木材を曲げることができると聞きましたが,本当にそのようなことができるのでしょうか?
A.デザイン性に富んだ家具では,湾曲部材が多く用いられます.私たちの住空間を直線だけで表わすことは不可能かもしれません.もし,椅子の背もたれが直線だったら,座り心地が悪そうです.
木材で湾曲部材を作るには,板材から切り出す方法が考えられます.この場合,切り出すにも手間がかかりますし,捨てる部分が多く,もったいない気がします.また,木材は,力を加える方向によって,強さが著しく違います.木材の強さは,繊維方向(樹木の立っている方向)で最も大きく,直角方向の10~20倍もあります.湾曲部材だと,目切れ部分の強度が著しく低下します.また,繊維が通っている方が見た目にも美しく,塗装の際にも有利です.曲げ木技術によって,資源が有効に利用でき,強度的にも,意匠的にも優れた湾曲部材を作ることができるのです.
Step 1 木を柔らかくする ~ 水分・熱
それでは,実際に木を曲げてみましょう.まず,曲げやすいように,木を柔らかくします.通常の木材(乾燥状態)は堅く,曲げようと大きな力を加えると,すぐに折れてしまいます.ところが,木材は,水分を多く含むと幾分柔らかくなり,加熱するともっと柔らかくなります.また,破壊する(折れてしまう)までの変形量(曲がり方)が大きくなります.従来の方法では,煮たり,蒸したりして,木材を加熱します.最近の研究で,水分を十分に含んだ木材を電子レンジで加熱(マイクロ波加熱)すると,煮沸,蒸煮する場合より,もっと柔らかくなることが分かりました.この他,アンモニア処理やアルカリ処理など,化学薬品を用いる方法もありますが,材の変色,臭い,材の収縮,コストなど,解決すべき問題があります.
Step 2 曲げる ~ トーネット法
次に,柔らかくなった木材を曲げますが,この時,トーネットと呼ばれる道具を用います.材料を曲げようとすると,曲げの外側(背側)は引っ張られ(伸び),内側(腹側)は押され(縮み)ます.木材は,いくら柔らかくしても,外側は,わずか3%程度の伸びで破壊します.ところが,内側は,樹種にもよりますが,20%程度まで圧縮することができます.そこで,外側を伸ばさず,内側を縮めることによって曲げるための道具(トーネット)がミハエル・トーネット(1796年生まれ)によって考案されました.曲げようとする材料の外側に鋼の板を沿わせ,内側の縮みだけで曲げられるように工夫されています.トーネットは有名な家具職人でしたが,世界で初めて曲げ木の技術を確立し,世に広めました.現在でも,彼の名は,曲げ木を用いた椅子の代名詞になっています.トーネットの代表作「14番の椅子」は現在でも広く親しまれています.
Step 3 形を固定して乾燥 ~ドライングセット
上述の方法で曲げても,すぐに力を除くと,元の形に戻ります.しかし,変形したまま乾かすと,形が固定されます.これをドライングセットと呼んでいます.濡れた髪の毛をカーラーに巻き,ドライヤーで乾燥すると,カールされるのと同じ原理です.しかし,きれいにセットされた髪の毛も,雨に濡れたり,シャンプーすると,まっすぐの髪の毛に戻ってしまいます.すなわち,ドライングセットされた曲げ木は,水分と熱の作用で,再び元の形に戻ってしまいます.曲げ木を用いた家具では,主に,そのデザインによって,変形が戻らないように工夫しています.加熱処理や薬剤処理によって変形を固定する方法もあります. (MI)
Q.木材の狂いの防止法について教えて下さい.
A.製材した直後の板材や角材は真っ直ぐですが,時間が経過すると乾燥によって反りや曲がり,ねじれ等の変形を生じて,目的とする寸法の材料が得られ難くなります.この変形を総称して狂いと呼びます.狂いの原因には,1)木材繊維が真っ直ぐ走行していないもの,あてなどの異常組織を含む木材固有の先天的なものと,2)乾燥過程で不適切な処理(不正な桟積み,乾燥温度の設定ミスなど)による後天的なものがあります.後者は正しい乾燥技術によって完全に防止できます.なお,前者も桟積み上部に重しを置き,狂いやすい木材を桟積みの下部に配置することでかなり防止できます.
一方,不適正な乾燥で狂いが生じた木材は,ホットプレスで加熱圧締すると平滑となり,その後コールドプレスに移して圧締冷却すると,狂いが矯正できます1).また,プレス機がない場合でも,狂いの出た木材に水分を吸収して元の真っ直ぐな状態に戻し,桟積み下部に配置して再乾燥すると狂いのない木材が得られます. (YT)
参考文献
1)谷口義昭ほか3名:木材工業,45(4),pp.168-172(1990)
Q.グリーン材,KD材とは何のことですか?
A.グリーン材は英語のGreen Woodの略で,一般的には伐採直後の木材のことです.乾燥現場では丸太から製材された多くの水分を含み,まだ乾燥過程を経ていない木材をさし,日本語では生材とも言われています.なお,丸太のまま長期間にわたって放置され既に乾燥が始まっている場合もありますから,具体的に含水率何%以上の木材をさすかは限定されていません.
KD材はKiln Dry Woodの略で,乾燥機(Kiln)を用いて人工的に乾燥させた木材を意味します.天然乾燥(Air Dry)だけの木材は厳密に言えばKD材には当たりません.近年外国から多くの木材が輸入され,その梱包に「KD」という表示をよく見かけます.これらの木材は,人工乾燥処理済みであることがわかります.
日本では,木材の乾燥程度を日本農林規格(JAS)によって規定しています.建築用針葉樹製材の乾燥度を,含水率によって三種類に区分しています.すなわち,含水率25%以下をD25,20%以下をD20,15%以下をD15とし,これらの記号・数値が表示されている柱材などを見かけることがあります.
従来の木造住宅建築では,製材して間もない乾燥の不十分な木材が多く使用されてきましたが,近年強度や寸法精度の高い構造用材料の要求が高まり,乾燥材が次第に普及しつつあります. (YT)
Q.なぜ木材の乾燥が必要なのですか?そのメリットは何ですか?
A.木材は乾燥すると寸法が縮む性質があります.私たちが生活する住宅では,新築後まもなく柱と鴨居,柱と敷居の接合部分に隙間が生じたり,板張り壁の継ぎ目が透いたり段差ができたりします.きれいな柱面に割れも出たりします.また,建築後しばらくすると,釘や接着剤で留められている床材や階段の踏み板がずれて,歩くたびに床鳴りがしたり,さらに時間が経過すると,ドアやふすまなど建具類の開閉時にきしみを生じ,壁面のクロスに亀裂が入ることもあります.さらに,木材中の水分(多くの場合,弱酸性から強酸性の範囲を示す)で構造強度を保持する緊結金具を腐食させることも報告されています.これらのトラブルの多くは,木材中の水分および乾燥に伴う寸法変化に原因します.
昔は建築に多くの時間を費やしていたため,建築中に木材が乾燥していました.したがって,乾燥による寸法変化は建築中に修正できたため問題は発生しませんでした.近年は建築部材のプレカット化や合板やボード類による乾式工法によって建築工期が著しく短縮されたため,木材は未乾燥なまま建築が完了し,入居後に乾燥によって前述のトラブルが生じてきます.消費者からのクレームがあまりにも多いと,在来工法の木造住宅に対するイメージは大きく低下します.
製材業界が十分に乾燥された木材を流通させることによって,住宅のトラブルやクレームは減少し,木造住宅の信頼性回復と着工数増大,ひいては国産材需要の拡大につながります. (YT)
Q.木材を乾燥させるのには,どんな方法があるのですか?
A.木材に限らず物を乾かすには,水分を内側から外側に移動させる必要があります.水は高いところから低いところに流れるように,木材中の水分は蒸気として高い気圧から低い気圧に向かって移動します.したがって,木材の内側を外側よりも高い蒸気圧にする必要があり,このために外部から熱(「温度」)を加えて内部水分を加熱することによって蒸気圧を高めます.熱はこの駆動力を発現するために必要です.また,木材外周の空気圧を強制的に下げると木材内外で蒸気圧差を生じて水分が移動します.この方法を利用したものが減圧乾燥法です.
木材表面に移動した水分は容易に蒸発しますが,あまりに蒸発が激しすぎると表面が速く乾きすぎて内部との間に大きな含水率差を生じます.このとき木材表面に割れが生じることがあります.この割れを防止するには,表面蒸発を抑える,すなわち木材外周の「湿度」を調整する必要があります.さらに,温度や湿度を木材表面に均等に分布させて,均一に乾燥させるために適度の「風」も必要となります.
以上のように,木材を乾燥させるには「温度」と「湿度」と「風」が必要で,これらを乾燥の3条件と呼ぶことがあります.
木材を乾燥させる方法は,大きく2つに分けられます.一つは自然に存在する乾燥の3条件によって「乾く」天然乾燥法と,もう一つは人工的に機械で乾燥の3条件を作り出して「乾かす」人工乾燥法があります1).前者は自然の成り行きに依存するために,季節変動が大きく,乾燥の3条件が制御できないため割れなどの防止が難しく,計画生産も不向きな乾燥法です.一方,後者の人工乾燥システムを導入することで,時間の短縮と計画生産が可能となるため,現在乾燥機の導入が積極的に検討されています. (YT)
参考文献
1)河崎弥生:建築用針葉樹製材のための人工乾燥材生産技術入門-第2版-, pp.19-22(1996)
Q.木材の人工乾燥法についてその現状を教えて下さい.
A.近年木材の人工乾燥法についての質問で最も多いのは建築用針葉樹材への適用で,その中でも特に多いのはスギ材です.人工乾燥としては約90%が蒸気式乾燥法であり,その他が10%です.乾燥法別にその特徴と問題点をあげると,以下の通りです.
[1]蒸気式乾燥法
重油又は重油・木くず焚き併用ボイラーからの熱源を基に,乾球温度と湿球温度を制御しながら乾燥操作する方法です.従来は70~80℃の乾燥温度でしたが,乾燥時間の短縮を目的として最近では100~120℃で処理が可能な乾燥機の導入が多くなっています.なお,100℃以上で乾燥する方法を高温乾燥法と呼ぶこともあります.高温,高湿の基では設備の損傷が激しく,その耐久性が問題となります.最近導入される機械の多くは,コンピュータ等の電子機器の発達によって,乾球温度と湿球温度が自動制御され,乾燥の自動化が図られています.
[2]高周波・熱風複合乾燥法
高周波加熱と熱風乾燥を組み合わせた乾燥法であり,前述の蒸気式乾燥法よりも乾燥時間を短縮することを目的として開発されました.大容積の木材の乾燥,乾燥スケジュールの確立,装置価格の低減化に向けてなお一層の改良が加えられています.
[3]高周波加熱減圧乾燥法
高周波加熱と減圧乾燥を組み合わせた乾燥法であり,乾燥時間の大幅な短縮化が図られます.現在普及している乾燥法では最も乾燥時間が短いとされています.一方,装置価格が高く,乾燥中に電力を多く消費するために,ランニングコストが高くなるという欠点を有しています.現在,天然乾燥と連携して乾燥することによって乾燥コストの削減化が検討されています.
[4]熱風加熱減圧乾燥法
減圧缶の中に木材を入れて熱風で加熱し,その後減圧,大気圧に戻して再び加熱し,減圧する,この操作を繰り返すことによって乾燥を促進する乾燥法です.装置価格が高いことが問題点となっています.また,機密性の高い乾燥室からファンによって空気を排出することで乾燥室内を大気圧よりも幾分負圧にして乾燥する方法があります.後者の乾燥法を減圧乾燥法に分類するには疑問が残ります.乾燥時間は蒸気式乾燥法と同程度です.
[5]燻煙乾燥
大量に収容できる燻煙乾燥炉に丸太を置き,廃材等を燃焼させた空気を循環させながら乾燥させる乾燥法である.温度や湿度の調整がラフであるために割れが生じたり,また目的とする含水率まで乾燥するには至っていません.現在では,乾燥と言うよりも熱処理効果による丸太の材質改良に主眼が置かれる傾向にあります.なお,乾燥コストの観点からみるとメリットがあるため,今後木材乾燥用に積極的な技術開発が待たれます.
[6]その他
上にあげた乾燥法以外に一部実用化している乾燥法として次のものがあります.
・パラフィン液相乾燥法 ・太陽熱利用乾燥法 ・地熱利用乾燥法
(YT)
Q.スギを人工乾燥するのは難しいと聞きますが,それはなぜですか?
A.建築用材に用いられてきたスギ材は,従来天然乾燥が主体で,人工乾燥はほとんど行われてきませんでした.人工乾燥する場合でも板材が主で,そんなに乾燥の難しい木材とは思われていませんでした.近年建築用構造材,特に柱や梁材への積極的な利用が叫ばれ,スギ材に対する人工乾燥の要求がにわかに高まってきました.しかしながら,乾燥過程で以下の理由によって乾燥の難しさが指摘されています.
[1]心材の含水率が高い
水分移動性の低い心材部の含水率が高い,特に黒心材でその傾向が顕著であります.また,品種や産地,生育条件,伐採時期によって含水率が約80%から約250%まで幅広く変動しています.そのため乾燥初期には各材の含水率のばらつきが大きく,これらを均一に乾燥仕上げをするには技術的に難しいのです.
[2]断面積が大きい
木材乾燥は材の厚さの2乗に比例して乾燥時間が増加します.例えば,3cm厚材の乾燥時間を1としますと,6cm厚材では3cmの2倍その2乗すなわち4倍,9cm厚材では3cmの3倍その2乗すなわち9倍の乾燥時間となります.建築用構造用スギ材は10.5cm角以上の材が多いため,板材に比べて材の内部から表面への水分移動に多くの時間を要することがわかります.
[3]心持ち材としての利用が多い
柱材では心(随)を含んだ状態で使用されることが多くあります.この場合,内側を含水率が高く,かつ乾燥の遅い心材が占め,表面は乾燥の速い辺材が占めるため,乾燥にアンバランスが生じて乾燥中に辺材表面に割れが出やすい.また,年輪方向と年輪に直角方向で収縮率が大きく異なり,収縮率の大きな年輪方向(円周方向),すなわち柱表面に割れが出やすい性質があります.著しく大きな割れは随にまで達し,かつ表面に長く入ります.さらに,心(随)の断面における位置の偏りによって縦そり等の狂いが生じることがあります.
以上,人工乾燥で目的の含水率まで乾燥させるには,長時間にわたって多量の熱エネルギーを投入しなければならないため乾燥コスト高となり,割れや狂い防止で乾燥操作に細心の注意を払う必要があるなど,スギは総合的にみて乾燥の難しい木材と言えます. (YT)
Q.スギ柱材を人工乾燥させるのに,どのくらいのコストがかかるのですか?
A.木材乾燥コストは,[1]機械装置の償却・維持の設備費,[2]機械の稼働に要するエネルギー費(ランニングコスト),[3]桟積み,機械操作に係わる人件費の合計で示されます.
このうち[1]と[3]は木材の種類を問わず基本的に掛かる経費であり,[2]は乾燥時間に大きく依存するため木材の種類に影響されます.
スギ心持ち柱材の乾燥法別の乾燥コストを表に示します1).現在広く普及している乾燥温度70~80℃の蒸気式乾燥機では,約10,000円/m3であることがわかります.
某県で使用されている蒸気式乾燥機について詳細に分析された結果をみると2),乾燥コスト11,740円/m3が報告されています.このうち,[2]の機械稼働に要するエネルギー費は5,950円/m3で全体の51%を占めています.
装置費とランニングコストを削減してスギ柱材の低乾燥コスト化を目的に,冷凍コンテナーを利用した乾燥機3)が開発されています.この装置のランニングコストは2,610円/m3であったと報告され,蒸気式乾燥機の半分以下の経費であることがわかります.本乾燥機は,高断熱,高気密の壁体からなり,乾燥機から排出される熱を回収・再利用する熱交換機を附帯し,また熱源は灯油温水ボイラーを用いています.
なお,ヒノキ柱材(12cm角・背割りあり,含水率25%まで乾燥)の乾燥コストは5,200円/m3であり,スギ柱材に比べて如何に低コストで乾燥できるかがわかります.(YT)
表 スギ心持ち柱材用の各種乾燥法1)
乾燥方法 | 温度範囲(℃) | 乾燥時間(日) | 乾燥コスト(円/m3) | 乾燥コストに及ぼす影響 | |
---|---|---|---|---|---|
除湿乾燥(低温) | 35~50 | 28 | 16,000 | ランニングコスト | |
蒸気式乾燥(中温) | 70~80 | 14 | 9,400 | 装置費,ランニングコスト | |
蒸気式乾燥(高温) | 100~120 | 5 | 7,200 | 装置費 | |
燻煙乾燥 | 60~90 | 14 | 5,500 | ||
高周波・熱風複合乾燥 | 80~90 | 3 | 9,500 | 装置費 | |
組み合わせ乾燥法 | 蒸射・減圧前処理 | 120 | 0.5 | 7,000 | 装置費 |
天然乾燥 | 10~30 | 30 | |||
蒸気式仕上げ乾燥 | 70~80 | 4 | |||
組み合わせ乾燥法 | 自然乾燥 | 10~30 | 10 | 10,000 | 装置費,ランニングコスト |
高周波加熱・減圧乾燥 | 50~60 | 1 |
参考文献
1)久田卓興:建築知識,42(10),pp.218-220(2000)
2)河崎弥生:建築用針葉樹製材のための人工乾燥材生産技術入門,pp.239-246(1996)
3)谷口義昭ほか5名:木材工業,50(5),pp.210-214(1995)
Q.最近新しい乾燥法がいろいろと開発されたと聞きますが,どんな方法なのでしょうか?
A.スギ材を目標の含水率まで乾燥するには多くの時間がかかり,乾燥経費を販売価格に反映しにくいという問題があります.この乾燥経費を削減するための新しい乾燥法の開発が強く望まれ,多くの研究機関や企業で検討されてきました.現在実用化あるいは有望視されているのは,100℃以上の高温度域で木材中の蒸気圧を著しく高めて急速に水分を移動させる方法です.高温処理のため乾燥に要する単位時間あたりのエネルギーコストは高いものの,乾燥時間を短縮することによって単位容積あたりの乾燥経費を低減することを基本としています.加熱には蒸気,高周波,溶融パラフィン等が使用されています.
[1]高温乾燥法
100~120℃の高温蒸気に耐久できる従来の蒸気式乾燥機の発展型です.乾燥時間は従来の蒸気式乾燥の1/5~1/2に短縮でき,材面割れも少なく,ヤニの滲出防止効果も期待できます.一方,高温度で処理するために,収縮率の増大,曲がりなどの狂い,内部割れ等による歩留まり率の低下,変色や強度等の品質低下が問題となります.なお,同機で80℃以下の乾燥も可能ですが,装置の価格が高いのでこの温度帯域で乾燥すると逆に乾燥コスト高となります.
[2]高周波・熱風複合乾燥
木材中の水分を高周波で加熱する方法と熱風乾燥を組み合わせた乾燥法です.断面積の大きな木材,例えば柱や梁材などでは木材内部の水分が高周波によって効率よく加熱されるため,乾燥時間の短縮効果があります.一方,装置の価格が高く,乾燥中に多くの電力を消費するためランニングコストが高くつくという問題があります.装置の低廉化と高周波電力の投入時間短縮等乾燥スケジュールの確立が待たれます.
[3]パラフィン液相乾燥
高温で溶融するパラフィン液中に木材を浸せきし,木材内部の水分を加熱して蒸気圧を高めることによって急速に乾燥する方法です.約24時間で乾燥は完了できます.一方,高温処理のために内部割れの危険性が高く,乾燥後に木材表面に付着したパラフィンを除去しなければならなく,また乾燥で減少したパラフィンを補給するなど,乾燥に要する諸経費を総合的に検討する必要があります.
このほかにもセラミックによる遠赤外線乾燥,加圧容器による過熱蒸気乾燥,マイクロ波加熱乾燥等が提案されていますが,乾燥原理は前述の[1]および[2]に属します.
以上の方法は乾燥する木材の種類,寸法,使用目的に応じて使い分けする必要があり,すべての用途の木材にオールマイティではないことを付け加えます.いずれの乾燥機も高価ですから,導入に当たっては慎重に選択するよう心がけてください. (YT)
Q.スギ柱材を人工乾燥するために乾燥機の購入を考えていますが,装置を選ぶ場合どのような点に注意が必要ですか?
A.乾燥機を製造している業界において現在まだ共通する機械性能の基準はできていません.したがって販売されている乾燥機・装置には諸性能にかなりの差があることが予想されます.
そこで,最低これだけの性能は保持されるべきであるという項目を以下に示しますから,機械を選定をするときの参考にしてください.
[1]乾燥機内の温度,湿度を設定値に調整でき,風速の分布が均一であること.
乾燥中に機内の温度と湿度が設定値に正確に設定でき,かつこの温度と湿度を機内全体にわたって均一に分布させるための風が必要です.もし風の強さにむらがあれば,乾燥機内の場所によって木材の最終含水率にばらつきが大きく,良好な乾燥仕上がりにはなりません.
[2]高温,高湿,酸性ガスに対して装置が耐久性に優れていること.
乾燥中装置は高温度,高湿度で,しかも木材から蒸散する強酸性の空気に長時間暴露されるため,壁体,モータ,配管,配線等に高耐久性の配慮がされていなければなりません.
[3]気密性や断熱性に優れていること.
高温による熱膨張で扉などが変形して気密性が低下したり,壁体の断熱性が低いために熱流出が大きいなど,機内からの熱エネルギーの流出防止のために高気密・高断熱性の構造になっているか配慮しなければなりません.
[4]ランニングコストと維持コストが安いこと.
ランニングコストに熱源コストの占める割合が高く,安価な加熱方法を採用していなければなりません.また,機械から出る騒音や煤煙などが周辺の住民に害を及ばさないような配慮がなされていなければなりません.
[5]保守管理や修繕が容易にできること.
小さな故障は近所の電気工事店や鉄工所等で修繕できることが望まれる.
[6]メンテナンスサービスや技術指導が充実していること.
乾燥機を導入している工場で最も多い苦情がメーカーのメンテナンスサービスが悪いことです.また乾燥がうまくいかない場合,乾燥スケジュールの変更等にも適切に対応できる技術指導の充実も必要です.
[7]安全性が高い.
機械の異常運転,火災の危険等安全性に十分配慮された設計になっていることが必要です.
[8]できれば自動運転が望ましい.
温度,湿度などを自動制御して運転できること.現在多くの機種がコンピュータによる自動運転機能を有しています.
なお,乾燥機を導入するにあたり,まず自社が主として乾燥する木材をメーカーに試験乾燥を依頼し,乾燥データを検討して,適切な機種であるか否かを判断してください.またすでに納入している工場に機械の性能を確かめて,判断資料を多く収集してください.
もしこれらのことができなければ,少なくとも近くの公設試験研究機関に相談することをお薦めします. (YT)