木材と感性– 木のはてな?(Q&A読み物) –

    Q.大きな断面の木材を使った室内にいるとなぜ落ちつくのでしょうか?

    A.

    1. 大きな質量の木材は張り合わせたものにはない深みがあり,木材のたくましさが感じられて安心感があります.
    2. 大きな質量のある木材からは気持ちが落ちつく木の香りが出てきます.
    3. 木材は優秀な断熱材,遮音材ですので,大きな断面の木材でできた室内では外部の熱の変化や騒音の影響を受けることが少ないので落ちつきます.
    4. 木材は湿度を調整する作用がありますので,外部の不愉快な高湿度や低湿度の状態から室内の湿度を一定に保つので,気持ちが落ちつきます.(KY)
    Q.木目は目にやさしい,目によいと言われますがなぜですか

    A.木目が「目にやさしい」大きな理由としては,木材が紫外線を吸収するため,木材から反射する光には,紫外線がほとんど含まれていないことがあげられます.

    紫外線は,スキーでの雪面からの紫外線反射によるいわゆる「雪目」の原因になるように目によくない刺激を与えます.

    もうひとつの理由は,木材表面では細胞の微小な凹凸で光が散乱し,反射光が弱められ,大きなグレア(ぎらつき)がないことです.また,木材の細胞は意外に透明性があり,ある程度の深さまで入ってから出てくる光もあります.

    では木材だったら何でも安心かというと,実は気をつけないといけないことがあります.それは,木材の上に塗装がしてある場合です.この場合には,塗装表面で光が鏡面のように反射するからです.鏡面反射した光には,光源と同じ波長の光が含まれていますから,紫外線も減っていないのです.

    ですから,表面が木材のデスクでも,照明の正反射が目に入らないように,照明の配置に留意する必要があります.(MM)

    Q.木目が室内にあると落ち着きますが,部屋が暗くなる心配がありますが木目をインテリアにいかすポイントは何でしょう.

    A.重役室のように,重厚なイメージを出したい場合には,明度があまり高くない木材を用いてもいいのですが,一般的には,明るい木材を使うことをお奨めします.

    明度の高い木材とは,淡色の材です.やや黄味あるいはほんのり赤みを帯びる程度の材が多いでしょう.スプルース,モミ,エゾマツ,トドマツ,ヒノキ,シナノキ,シオジ,タモ,キリ(市販のものは漂白してある場合が多い)などいろいろとあります.塗装をしてある場合も艶消しの明るい目のものを選ぶとよいでしょう.

    木材が部屋に沢山あればある程良いといったものではなく,その部屋をどのような雰囲気にしたいかで木材の使い方,最適な木材率が異なります.より自然な雰囲気にしたい場合は木材率を上げるといいのですが,閉塞感がでないように注意が必要です.また,単調にならないように何らかの形でアクセントをつけるとよいでしょう.

    ワイルドな雰囲気や木の生命感を感じたい場合には,節のある材とか,木目の複雑な材を使うことが考えられます.

    意外に少ない割合でも,木製の家具など,木材が視野にあるとなごむものです.(MM)

    Q.木の色にはどんなものがありますか?

    A.多くの木材の色は黄色から赤色に含まれます.美術で色を表すのに用いられるマンセル法でいうとYR系の色になります.

    例外もありますが,軽い材ほど材色が明るく黄みを帯び,重い材ほど暗く赤みを帯びる傾向があります.

    一例として,寄せ木や象嵌など工芸的に使われる主な材色と樹種名をあげます.

    • 白  色:トネリコ,ドロノキ,ヤナギ,サワグルミ,セン,ミズキ,モミ,スギ,ヒノキ,マ
    • 黄  色:ウルシ,ツゲ,カヤ,キハダ,イチョウ,ヒバ
    • 黄 褐 色:センダン,ケンポナシ,カラマツ,ミズナラ,ケヤキ,チーク
    • 淡 紅 色:スギ,トウヒ,カツラ,マカンバ,イタヤカエデ
    • 紅  色:イチイ,アカガシ,クスノキ,ヤマザクラ,イスノキ,ミズメ,カリン
    • 淡緑褐色:ホオノキ,アオギリ
    • 褐  色:ニレ,シオジ,ケヤキ,クリ,屋久スギ
    • 灰  色:ミズナラ,キリ,セン,エンジュ
    • 赤 紫 色:シタン,クルミ
    • 黒  色:コクタン,クロガキ(MM)
    Q.木目模様にはどのようなものがありますか?

    A.代表的なのはまさ目模様と板目模様です.

    まさ目は縞模様のように見えます.また,板目模様はタケノコの断面のように,山形が積み重なったような模様です.

    木目模様は樹種によってずいぶん違います.また,同じ幹でも上の方と下の方で違います.さらに,たとえ同じ丸太から切り出した材であっても,切り方(木取りの仕方)によって表情が大きく変わります.

    例えば,樹木にはコブができることがありますが,そういう部分から切り出された材には信じられないほど複雑な木目模様が現れることがあります.このように,特殊で,装飾的・工芸的用途に向くような木目模様は「杢(もく)」と呼ばれます.

    杢にもいろいろな種類と呼び名があります.比較的よく見かけるものをあげると,ナラ(オーク材)などによく見られる「虎斑(とらふ)」,カエデなどに見られる「鳥眼杢(ちょうがんもく,とりめもく)」,トチノキやカエデなどに見られる「波状杢(はじょうもく)あるいは縮み杢(ちぢみもく)」,ケヤキなどに見られる「玉杢(たまもく)」などがあります.

    最近内装や家具によく用いられる材の「バーザイ」はカエデの鳥眼目のことです.英語で「バーズアイメープル(Bird’s eye maple)」と呼ばれるものが縮まって「バーザイ」と呼ばれているようです.(MN)

    Q.木目模様は1/f(エフ分の1)ゆらぎをしているから見た目に自然で心地よいというようなことをマスコミで紹介していましたが,1/fゆらぎとは何ですか?

    A.木材の板などに現れるまさ目模様を例にお話しします.

    まさ目模様はご存知の通り,単純にいえば縞模様です.でも,よく見てください.縞と縞の間隔は揃っているようで,実は微妙に変化していることに気づくはずです.

    そこで,まさ目模様をフーリエ変換という数学的な手法を適用して,どういう周波数で明暗の変化が起こっているかを調べてみます.ここでいう周波数とは,単位長さあたり何回明と暗の変化があったかを表します.細かい縞模様は「高周波数」であり,粗い縞模様は「低周波数」ということになります.

    このとき,「様々な周波数の縞模様が重なり合ってまさ目模様が出来上がっている」という仮定をたて,どの周波数の縞模様がどのくらいの強さで混ざっているかを調べるのです.

    このような解析を行って,横軸に周波数,縦軸に強さをとった2次元のグラフ(スペクトル)を描きます.このとき,両軸とも対数目盛にしておくのがポイントです.出来上がったスペクトルを見ると,全体的に右下がり,傾きでいうと-1,すなわち周波数(f)の逆数になっていることがあります.こういうグラフが得られる模様が1/fゆらぎをしていると呼ばれます.

    風景のような自然な情景に対して上のような解析(スペクトル解析と呼ばれます)を行うと,多くの場合において1/f型のスペクトルが得られることが知られています.絵に限らず,川のせせらぎや,人間の心拍リズムなどについても現象が確認されています.ここから1/fゆらぎと自然さが結びつけられてきました.

    まさ目模様に限らず様々な木目模様においても,スペクトル解析を行うと1/f型のスペクトルがよく得られます.でも,1/f型でない木目模様でも自然に見えます.つまり,1/fゆらぎは自然さを表すファクターの1つですが,それだけで自然さが決まるものでもありません.(MN)

    Q.天然木ツキ板と木目印刷とを見分ける方法はあるのですか?

    A.印刷の場合は一般に,虫眼鏡か何かで拡大して見れば,網点が見えます.

    印刷の場合は,赤青黄のインクの点の大きさで色相や明度の違いを表現しています.従って網点が見えるのです.でも,どうして印刷だと見分ける必要があるのですか.本物の方が高価だからですか.それとも偽物だということでいやなのですか.

    最近の木目印刷は,精巧にできているものも多く,道管のように大きめの細胞の微小な凹凸をエンボス加工で付けたり,見る方向により光沢が変化するような工夫が試みられたりしています.

    本物の木材は透明性のある細胞から出来ているので,何層か中からの光の反射もあり,よく眺めると確かに深みがあります.

    ただ,木目印刷のよいところは,天然物でないので,色揃え,色合わせが容易だということです.同じ色をどんなに広い面積でも用意できます.後から追加する場合でも,同じ色を揃えることができます.

    貴重な大径木を伐らずに,大径木の木目を安価に楽しめるという利点があります.今後益々印刷木目は精巧になっていくものと考えられます.

    また,淡色の木材の薄い単板に早材と晩材の色調に染色し,銘木となるような型で圧締接着し,さらにそれをスライスして作った人工銘木ツキ板も市販されています.(MM)

    Q.木材のにおいにはどんな効果があるの?

    A.樹種によって多種類の臭い成分がありますが,大多数の人が「良い臭い」と感じているヒノキ,スギ,アカマツ,ヒノキアスナロなどには,αーピネン,βーピネンが多く含まれています(ヒノキではαーピネンが63%,βーピネンが27%,スギではαーピネンが96%を占めている).

    αーピネンは,森林浴中の森の空気中にも存在することが知られています.

    このαーピネンの吸入すると疲労度の自覚症状訴え率が減少を示し,さらに実際に疲労度を軽減する効果を持つ事が観察されています(高岡正敏:アトピー性皮膚炎と環境,日本小児科学会誌,9,20-24 (1990)).

    また,人に自然な感じを与えるタイワンヒノキやヒノキアスナロから得られる精油が室内塵性ダニ類の行動や繁殖を抑制することも報告されています(高岡正敏:小児喘息患児の家庭内のチリダニ科pyrogliphaidaeの季節消長及び日内変動と喘息発作度について,アレルギーの臨床,4,63-67 (1984)).

    本来,木材には2%程度の精油が含まれていますが,その精油濃度の10%でダニの繁殖が抑制されることが明らかにされています.(KA)

    Q.ヒノキに含まれている「ヒノキチオール」の効果について教えて下さい.

    A.実はヒノキには「ヒノキチオール」がごくわずかしか含まれていません.ヒノキ自身のヒノキチオールの効果はあまり期待できないでしょう.

    日本では,ヒノキチオールは昭和10年代に「台湾ヒノキ」の成分分析の過程で発見されたので,この名前が付けられたのだと思われます.学名は「ツヤプリシンthujaplicin」で,ネズコ,アスナロ,ヒバやベイスギに含まれており,特に青森ヒバには多く含まれていることで有名です.

    ヒノキチオールは抗菌作用を持つことで有名になっており,青森ヒバから抽出分離した物が繊維類の抗菌剤として利用されているようです.(MM)

    Q.木は木材になっても生きていて,呼吸をしているし,水を吸ったり吐いたりしているけど,どこから呼吸をしていて水を吸ったりしているの教えてください.

    A.木材は伐採した後も,生きているように見えます.実際は死んでいますが,多くの人や書籍では文学的な表現で生きていると言っているのです.それは木材になっても水分の出入りがあり,それを呼吸と表現しているのです.本当に,炭酸ガスを吸って酸素を出したり,酸素を吸って炭酸ガスを出したりしているのではありません.

    この水分の出入りのことですが,木には,虫眼鏡などで木口(こぐち)から見ると(年輪が見える方向)小さな穴があります.ここから主に湿気などの水分を吸収するのです.まわりが乾燥してくると,ここから吸い込んだ水分を吐き出します.板面にも小さな穴(道管)があるような木(ケヤキ,セン)だとここからも水分の吸い込みをします.道管がなくても板面からのゆっくりとした水分の出入りはあります. (KN)