君たちは,材木を商っているようだが,木を伐採して,環境を破壊していることが恥ずかしくないのか? 世間ではこれだけ地球環境(地球温暖化)やその原因となる炭酸ガスなどのことが話題になっているんだぞ! 先日の日経新聞にもそんなことが書かれていたが,木造住宅なんてやめてしまって,住宅はすべて鉄で作るべきだ! 君たちも研究対象を考え直した方がいいんじゃないか...まったく!
厳しいご意見ですネ.
でも,少し考えていただきたいことがあります.木を伐採して材料として利用することが,これすなわち地球環境を破壊することなのでしょうか? あなたは炭酸ガス問題に着目されていますが,金属を使っていれば炭酸ガスの排出は抑制できるのでしょうか.
例えば,住宅建築や家具生産に利用される合板(薄い木材単板を接着剤で張り合わせたもの)と窓枠(サッシ)に利用されるアルミニウムを比べると,これらの材料を1m3調製するために放出する炭素の量は,合板が28kgであるのに対し,アルミニウムでは22,000kgであると報告されています.
住宅建築全体で比較すると,在来軸組の木造住宅を建築する場合,床面積1m2あたり約80kgの炭素を放出するのに対し,鉄骨鉄筋コンクリート造では,その2倍以上の炭素を放出します.
木造住宅においては,アルミサッシやその他多くのプラスチック製品を使う場合の計算であるため,これらを木材製品に置き換えることができれば,もっと炭素放出量を減少することができるはずです.さらに,これに伴って,廃棄物も減少することが可能となるでしょう.
ちなみに,木製サッシ(2.8kg/m2)製造時の炭素放出量は,アルミサッシ(97kg/m2)のそれの約35分の1であり,それだけ地球環境に与える負荷が少ないのです.
また,私たち人間も同じですが,若い頃,特に10代後半の成長期には,よく食べてよく育ちますよネ.樹木も,若い頃は成長が早く,よく食べる,と言うか,炭酸ガスをよく吸収します.ところが,人間も年をとるとあまり食べなくなるように,老木になると,炭酸ガスの吸収量も極端に減ってしまうのです.樹木も生命活動を維持するために,私たちと同じように,呼吸(酸素を吸って炭酸ガスを吐く)をしていますので,老木になると,固定する炭素と放出する炭素の量の収支がゼロになってしまいます.
従って,樹木はある程度成長すると伐採し,材料として木材を使い,その替わりに若い苗木を植える方が,結果として炭素の吸収量が多くなると言う考え方もあります.だからといって,天然林から大径の木材をいくらでも伐採しても良いと言うことではありません.
炭酸ガスを固定し,木材を提供するだけが森林の機能ではなく,森林には,水資源,土資源,生物多様性などの保全,防災,水質,汚染物質の浄化などの様々な機能があります.自然の恵みである木材を利用する場合,これらのことを忘れてはいけないのです.
さらに,アルミや鉄などの材料は,製造時に大量の炭素を放出するだけでなく,できあがった製品の中に炭素をまったく含んでいません.それに対し,木材は,製造時の炭素放出量が少ないばかりでなく,木材として存在する間は,すなわち,燃えたり,腐ったりするまでの間は,固体として固定された炭素を保管し続けてくれます.いわば,木造住宅や木材製品は炭素の保管庫としての役割を担っているのです.
したがって,「成長した樹木は伐って木材として使い,すなわち木材として炭素を保管する.そして伐った後に必ず新しい苗木を植える」ことが,大気中の炭酸ガスを減少させることになるのです.
私たちは,21世紀を支える貴重な資源としての木材をいかにうまく利用していくかについて研究しています.今後ともご支援をお願いいたします.
さらに詳しい内容については,
有馬孝禮著:エコマテリアルとしての木材,全日本建築士会(1994)
などを参考にして下さい.(MI)