床暖房に使用された木の床はスキやソリ,ワレが発生しやすいと聞きます.床暖房用の木床について教えてください.
床暖房方式には温水による床暖房方式と,電気による床暖房方式があります.以下はいずれの方法にも共通する内容です.
床暖房用床材について
住空間に利用される暖房形式には,熱の伝わり方によって次の3つに分類されます.
対流方式:温風暖房機などによるもの
伝導方式:足温器・電気毛布などによるもの
輻射方式:石油ストーブ・暖炉などによるもの
床暖房は,このうち伝導方式と輻射方式を組み合わせた暖房形式です.
床暖房の特徴
床暖房時の床表面温度は普通25℃~30℃の範囲であり,その接触温は人体にとって快適温度となっています.
床暖房時の室内の垂直方向の温度分布は17℃~18℃で均一であり,温風暖房などにみられるような部屋の上部にゆくほど温度が高くなることは少ないのです.
燃焼ガスが発生せず,空気の汚れが発生しません.
床暖房に使用する木床の留意点
床暖房に使用する木床は,普通一般に使用されている木床に比べて,使用時の環境条件が異なります.
床材の表面温度は25℃~30℃ですが,熱源との接触界面では70℃~80℃の温度に上昇します.
実生活時に床材の表面が座布団などで被覆され,部分的に30℃以上の高温度になることがあります.
同一床面内で床暖房装置が敷設されている床面と敷設されていない床面(普通,部屋の床面積に対して70%前後の面積が敷設される)で表面温度が異なり,床暖房装置が敷設されていない床面に微細な表面結露が発生することがあります.
上記のように,温度や水分・湿度条件が,より過酷な条件下に曝されます.
木床の含水率について
床暖房木床は,床暖房使用時期には含水率3%前後,不使用時期(雨期・夏期)には含水率13%前後になります.床施工時初期の床材の含水率が低い場合は,その後の吸湿によって床材のツキ上げやふくれが発生します.また,初期含水率の高いものは,床暖房使用時期の放湿によってスキやワレが発生してきます.
このような吸放湿にともなう木床の伸縮挙動を少なくするために,木床を化学処理し,寸法安定化をはかることが一般的に考えられます.一方,製品の初期含水率8%前後(±1%)に管理し,吸放湿にともなう伸縮挙動を小さくします.すなわち,スキや伸びは発生しますが,それを目立ちにくくする工夫も,自然材として木床を使用するための経済的な方法です.下の表は床基材の各種材料を大枠でくくった含水率の変化に対する寸法変化率です.
各種床材料の吸放湿にともなう含水率1%当たりの長さ・巾寸法変化率
材 料
変化率%
ミ ズ ナ ラ 材
接 線 方 向
0.35
半 径 方 向
0.18
ラワン合板 9㎜ 3ply
0.016
M D F 9㎜メラミンタイプ 比重0.70
0.035
パーティクルボード9㎜メラミンタイプ 比重0.73
0.042
合板基材は最も変化率の小さな基材ですが,その含水率の幅管理が難しく,辺材と心材の混入や異樹種の混入などがあれば,製品内および製品間で含水率のバラツキ幅が3%~20%におよぶことがあります.そのため,合板基材を使用した床材は,挙動の安定した床材とそうでない床材とのバラツキが大きいのです.
MDF(中比重繊維板)などのエジニアリングボードは,吸放湿にともなう寸法変化率は大きいものの,製品内や製品間のバラツキがが少なく,商品としての含水率変化に対する安定性は期待できます.ただし,耐久性能から判断すると,床暖房用木床基材として使用可能な基材は耐久性接着剤使用の合板基材か,特定メラミンタイプのMDFに限られます.
木床の厚みについて
床暖房用木床の厚みは,薄いものほど表面温度の立ち上がり速度が速いため,熱効率が良く,経済的です.ただし,床材の厚みが薄すぎるため,次のような不具合が発生しないよう,工夫する必要があります.
床暖房装置の不具合(装置間のスキや装置の波打ちなど)が表面に映出しない厚みであること.
床暖房装置が温水マットのような柔らかい装置の場合,歩行時や生活時に不快な柔らかさを感じさせない厚みであること.
床材自体の厚みの薄さによって,反りやねじれ・ワレなどの発生がない厚みであること.
木床の巾・長さ寸法について
床暖房木床は,普通一般に使用する木床に較べて吸放湿による伸縮変化が激しいのです.木床の巾・長さの寸法を小さく分割することにより,伸縮にともなって発生する応力を緩和させ,反り・狂い・ねじれ・スキ・ツキ上げなどを目立たなくすることができます.ただいたずらに寸法を小さいものは床材としてのデザイン性を欠いたり,施工性を悪くしますので注意を要します.
木床の施工方法について
木床固着用接着剤は,熱変化(0℃~80℃) の繰り返し劣化の少ない接着剤を選択してください.また,上貼型の場合は床暖房装置の表面材が,木質・金属・プラスチックなど装置メーカーによってその表面材が異なるため,いずれの被着材であっても良好な耐久性のある接着剤を選択してください.接着剤の選択の誤りによって,床が浮いたり,スキが発生したり,接着界面で床鳴りを発生させることが多くあります.
木床の表面仕上げについて
表面仕上げ塗料及び着色剤は,熱変化による劣化の起こりにくい塗料・着色剤を使用してください.
着色剤の選択の誤りによって,初期の色が熱によって変わってくることがあります.また,一般の床材よりも表面にヒビ割れが発生しやすいので,ヒビ割れ防止処理の床材を使用することが大切です.
床暖房用装置の選択と床下地及び下地組について
床暖房用木床としてその性能は保持されていても,下地となる床暖房用装置の品質不良のため,ふくれ・波打ち・はがれ・床鳴りなどの不具合や床暖房用装置を支える床下地基材の劣化変形(凹凸)が床材表面に現れたり,更に最下層の大引・根太組が床暖房によって乾燥収縮し,壁面・敷居と床材とのとり合わせに大きなスキを発生させたりすることが多くあります.
床暖房をする場合は,
床下地組の材料は乾燥材を使用するしてください.
床面と壁面・敷居のとり合わせは,床材の伸縮による『逃げ』をあらかじめとっておいてください.
床下地材は耐久性のある床下地材(乾燥した板材または耐久性接着剤使用の合板など)を使用してください.
床下地材の施工は床下地材の吸湿にともなう伸び量のスキをあけて施工してください.
品質の安定した床暖房装置を正しく施工してください.
床暖房用に設計された木床を使用してください.
すなわち,床暖房では床全体をそれに適した部品・部材・施工法を採用し,床仕上げをすることが最も大切なことです.(
TN
)