桶も樽も木材でできていて,形もよく似ていますが,どこが違うのですか?
日本の桶も樽も幅方向に湾曲した部材を「たが」で留めるという構造はよく似ています.材にはスギやサワラが使われる点も同様です.
ところが,側面部材の木取りの仕方が違います.桶の側面にはまさ目模様が現れていますが,樽の側面には板目模様が現れているのです.このような木取りとなった理由にはいくつか考えられます.
一時的な容器として使われることの多い桶は,使用中は部材が吸湿し,使わないときは乾燥するというサイクルを繰り返すことになります.寸法変化をなるべく小さくするためにはまさ目木取りを選ぶことが理にかなっています(水分変化に伴う寸法変化は板目よりもまさ目の方が小さいからです).
また,桶は円周に沿って密度の小さい早材と密度の大きい晩材が交互に並んだ構造になっていますが,早材部分には水分をよく吸収します.そこで「おひつ」として使うと,ご飯の余剰水分を吸湿してくれて,おいしいご飯が食べられるということもあるかもしれません.
恒常的に水分を蓄えておくための容器である樽は,材が常に水分を十分に含んだ状態にあるので,寸法変化についてはさほど気にする必要はありません.むしろ,いかに内容物をしみ出さないようにするかが重要でしょう.板目木取りの部材だと,樽の外側に向けて密度の小さい早材と密度の大きい晩材が交互に並んでおり,晩材が水分滲み出しのブロック層として機能することが考えられます.
桶も樽も,長い経験に基づく,木材の特徴をうまく利用した技術といえます.
なお,ウィスキーの貯蔵樽にはまさ目木取りのホワイトオーク材が用いられます.なぜウィスキー樽ではまさ目材がもちいられるのかについては,板目木取り材だと乾燥が大変だからではないかという考えがあります.(MN)