スギを人工乾燥するのは難しいと聞きますが,それはなぜですか?
建築用材に用いられてきたスギ材は,従来天然乾燥が主体で,人工乾燥はほとんど行われてきませんでした.人工乾燥する場合でも板材が主で,そんなに乾燥の難しい木材とは思われていませんでした.近年建築用構造材,特に柱や梁材への積極的な利用が叫ばれ,スギ材に対する人工乾燥の要求がにわかに高まってきました.しかしながら,乾燥過程で以下の理由によって乾燥の難しさが指摘されています.
[1]心材の含水率が高い
水分移動性の低い心材部の含水率が高い,特に黒心材でその傾向が顕著であります.また,品種や産地,生育条件,伐採時期によって含水率が約80%から約250%まで幅広く変動しています.そのため乾燥初期には各材の含水率のばらつきが大きく,これらを均一に乾燥仕上げをするには技術的に難しいのです.
[2]断面積が大きい
木材乾燥は材の厚さの2乗に比例して乾燥時間が増加します.例えば,3cm厚材の乾燥時間を1としますと,6cm厚材では3cmの2倍その2乗すなわち4倍,9cm厚材では3cmの3倍その2乗すなわち9倍の乾燥時間となります.建築用構造用スギ材は10.5cm角以上の材が多いため,板材に比べて材の内部から表面への水分移動に多くの時間を要することがわかります.
[3]心持ち材としての利用が多い
柱材では心(随)を含んだ状態で使用されることが多くあります.この場合,内側を含水率が高く,かつ乾燥の遅い心材が占め,表面は乾燥の速い辺材が占めるため,乾燥にアンバランスが生じて乾燥中に辺材表面に割れが出やすい.また,年輪方向と年輪に直角方向で収縮率が大きく異なり,収縮率の大きな年輪方向(円周方向),すなわち柱表面に割れが出やすい性質があります.著しく大きな割れは随にまで達し,かつ表面に長く入ります.さらに,心(随)の断面における位置の偏りによって縦そり等の狂いが生じることがあります.
以上,人工乾燥で目的の含水率まで乾燥させるには,長時間にわたって多量の熱エネルギーを投入しなければならないため乾燥コスト高となり,割れや狂い防止で乾燥操作に細心の注意を払う必要があるなど,スギは総合的にみて乾燥の難しい木材と言えます.
(YT)