最新木質建材[素材系]
107 ブナ
Japanese beech (Fagas crenata)

 ブナは北海道西南部,正確には長万部(おしゃまんべ)―黒松内(くろまつない)―寿都(すっつ)を結ぶ黒松内低地帯以南から本州,四国を経て九州の鹿児島高隈山までの間に広く分布します.日本のいわゆる温帯林(冷温帯)を代表する樹種で,本州以南では深山の樹の典型的なものであり,純林も各所の山岳地帯に見られます.もっとも北海道南部では平地に近いところから生じています.
樹 形

 落葉の高木で高さ25~30m,直径1.5mくらいまでになります.樹幹はおおむね通直で,枝下もふつう長く,樹冠は広がっています.樹皮は灰白色でほぼ平滑ですが,老木や成長の悪い樹では僅かに短い縦の裂け目が入ります.
材の特徴  ブナで一般に心材といわれているのは正確には偽心材とするべきだとされています.辺材は白色,淡黄白色,ときに少し赤味がかり,偽心材はふつう褐色または紅褐色であるのでその境は明らかです.放射組織は1細胞幅の単列放射組織から15~20細胞幅の広放射組織まで混在して出てきます.後者は構造上は複合放射組織といわれるもので,板目面で樫目(かしめ)になって肉眼でもよく認められ,一見してブナと知ることができます.
材 質  気乾比重0.65,絶乾比重 0.62,圧縮強さ 45 N/mm2,引張強さ135 N/mm2,曲げ強さ100 N/mm2,曲げヤング係数 12×103 N/mm2,衝撃曲げ吸収エネルギー 12 J/cm2,含水率1%当たりの平均収縮率は接線方向0.41%,放射方向0.18%,硬さは木口面45 N/mm2,まさ目面18 N/mm2,板目面20 N/mm2程度です.
 ブナの性質は一般にかなり幅があって,気乾比重は0.50~0.75の範囲にわたりますが,代表的な値として0.65が挙げられます.おおよそ緻密でやや重硬ですが,切削その他の加工は困難ではありません.強度や弾性的性質も良好で,マカンバに比べて1~2割劣る程度です.従って材の本質は決して劣等なものでなく,むしろ強度部材などの用途には適当なものの1つです.含水率変化による収縮率は比重に相応して大きく,また放射方向と接線方向との値の違いが他の樹種よりも一般に大きいので,材の部分による不均質と相まってブナは狂いが多いと言われる原因となっています.人工乾燥が難しいとされているのもこのためです.
用 途  ブナはわが国の広葉樹のうちで一番蓄積が多いにもかかわらず 50年ほど前まではその利用は本格的であるとはいえませんでした.しかし,近年ではその蓄積が少なくなり,ヨーロッパや北米産のビーチを代替材とすることが増えています.戦後から今日までに,時期的に多少の消長はあるものの一般合板,ベニアチェスト(輸出用組立茶箱,ゴム箱),紡績木管,ミシンテーブル,その他の家具,モザイクパーケット,防腐枕木,パルプ,ファイバーボード,パーティクルボード等に利用されてきました.また,曲木加工もブナの独特の分野です.
参考文献 林業試験場編:「木材工業ハンドブック改訂 3版」,丸善,1982