木材や住まいの防腐・防蟻処理について教えて下さい.
木材に腐朽やシロアリ被害などの劣化が生じるためには,適切な温度と水分が必要です.このうち,温度は15℃以上になれば腐朽菌や虫の活動が活発になります.一方,水分条件は,住宅に関しては意匠や工法,あるいは住まい方によって支配されることが多いため,工夫によって劣化の危険性を低減させることも可能です.建立から永い歴史をもっている日本の寺社建築では,耐朽性のある樹種の使用とともに,水への配慮をした建て方と十分な保守管理によって耐久性が確保されてきたともいえます.
住宅に作用する水分・湿分には,雨水,生活用水,床下湿気,結露水などが考えられます.雨水については,屋根の勾配や取り合わせ部分に配慮するほか,外壁の仕上げ材や目地の亀裂部分,樋の接合部やオーバーフローも注意を要するところです.生活用水については,台所,洗面所,トイレなどの水栓やシンク廻り,浴室では浴槽と壁との取り合い部が水分の侵入個所としてあげられます.
床下湿気については,適切な通風孔の配置や防湿対策が大切です.せっかくの通風孔も物を置いてふさいでしまっては何の役にも立ちません.
結露は外気温度が下がり,室内や壁内が露点温度より低くなった場合に発生します.したがって,壁内結露を防ぐためには,水蒸気ストッパーの防湿層を断熱材の室内側に設け,外気側に空気流通層をつくることなどが効果があります.
しかし,現在の住宅は水回り箇所の分散や高気密・高断熱,さらには耐久性の低い樹種の使用など,場合によっては腐朽やシロアリ被害が促進される状況がみられます.現状においては,工法や保守管理だけで長い耐久性を維持するのが困難なのが実状です.
木材を薬剤で防腐・防蟻処理する方法には,木材中に薬剤を圧力をかけて注入する加圧処理と,塗布や浸せきによる表面処理とがあります.耐久性の点では,より深く薬剤が浸透した加圧処理の方が高い性能が保証されています.いずれの方法でも,仕口などの加工をすませた最終の形にしてから処理をすると高い効果が得られます.とくに,加圧処理した木材でも内部まで薬剤が注入されていないことがあるため,現場で加工した部分には十分に薬剤を塗布する必要があります.
加圧処理用の薬剤としては,従来は油性のクレオソートや固着型の水溶性無機系防腐剤であるCCAが用いられてきました.しかし,最近では匂いや廃棄処理に伴う問題のため使用量は低下し,ナフテン酸亜鉛やナフテン酸銅のような油溶性防腐剤,アルキルアンモニウム化合物やアゾール系化合物のような有機系防腐剤と銅やホウ酸を合わせた薬剤に変わりつつあります.加圧処理用の薬剤の種類や注入量などは,JASあるいはAQで認証されています.
シロアリに対する住宅現場での防蟻処理については,木部の処理と土壌の処理とがあります.土壌の処理は,わが国の主要なシロアリが地下生息性の種類であるため,床下土壌を薬剤で処理することで住宅内部への侵入を防止しようという目的で行われます.防蟻薬剤としては従来有機リン化合物が用いられてきましたが,最近ではピレスロイド系薬剤などに移行しつつあります.また,薬剤の剤型もいろいろな種類のものが開発されており,薬剤による土壌処理のかわりに防蟻シートやコンクリートスラブを用いる方法など手法も多様化してきています.(YI)