「曲げ木」って何ですか? 電子レンジを使って,木材を曲げることができると聞きましたが,本当にそのようなことができるのでしょうか?
デザイン性に富んだ家具では,湾曲部材が多く用いられます.私たちの住空間を直線だけで表わすことは不可能かもしれません.もし,椅子の背もたれが直線だったら,座り心地が悪そうです.
木材で湾曲部材を作るには,板材から切り出す方法が考えられます.この場合,切り出すにも手間がかかりますし,捨てる部分が多く,もったいない気がします.また,木材は,力を加える方向によって,強さが著しく違います.木材の強さは,繊維方向(樹木の立っている方向)で最も大きく,直角方向の10~20倍もあります.湾曲部材だと,目切れ部分の強度が著しく低下します.また,繊維が通っている方が見た目にも美しく,塗装の際にも有利です.曲げ木技術によって,資源が有効に利用でき,強度的にも,意匠的にも優れた湾曲部材を作ることができるのです.
Step 1 木を柔らかくする ~ 水分・熱
それでは,実際に木を曲げてみましょう.まず,曲げやすいように,木を柔らかくします.通常の木材(乾燥状態)は堅く,曲げようと大きな力を加えると,すぐに折れてしまいます.ところが,木材は,水分を多く含むと幾分柔らかくなり,加熱するともっと柔らかくなります.また,破壊する(折れてしまう)までの変形量(曲がり方)が大きくなります.従来の方法では,煮たり,蒸したりして,木材を加熱します.最近の研究で,水分を十分に含んだ木材を電子レンジで加熱(マイクロ波加熱)すると,煮沸,蒸煮する場合より,もっと柔らかくなることが分かりました.この他,アンモニア処理やアルカリ処理など,化学薬品を用いる方法もありますが,材の変色,臭い,材の収縮,コストなど,解決すべき問題があります.
Step 2 曲げる ~ トーネット法
次に,柔らかくなった木材を曲げますが,この時,トーネットと呼ばれる道具を用います.材料を曲げようとすると,曲げの外側(背側)は引っ張られ(伸び),内側(腹側)は押され(縮み)ます.木材は,いくら柔らかくしても,外側は,わずか3%程度の伸びで破壊します.ところが,内側は,樹種にもよりますが,20%程度まで圧縮することができます.そこで,外側を伸ばさず,内側を縮めることによって曲げるための道具(トーネット)がミハエル・トーネット(1796年生まれ)によって考案されました.曲げようとする材料の外側に鋼の板を沿わせ,内側の縮みだけで曲げられるように工夫されています.トーネットは有名な家具職人でしたが,世界で初めて曲げ木の技術を確立し,世に広めました.現在でも,彼の名は,曲げ木を用いた椅子の代名詞になっています.トーネットの代表作「14番の椅子」は現在でも広く親しまれています.
Step 3 形を固定して乾燥 ~ドライングセット
上述の方法で曲げても,すぐに力を除くと,元の形に戻ります.しかし,変形したまま乾かすと,形が固定されます.これをドライングセットと呼んでいます.濡れた髪の毛をカーラーに巻き,ドライヤーで乾燥すると,カールされるのと同じ原理です.しかし,きれいにセットされた髪の毛も,雨に濡れたり,シャンプーすると,まっすぐの髪の毛に戻ってしまいます.すなわち,ドライングセットされた曲げ木は,水分と熱の作用で,再び元の形に戻ってしまいます.曲げ木を用いた家具では,主に,そのデザインによって,変形が戻らないように工夫しています.加熱処理や薬剤処理によって変形を固定する方法もあります.
(MI)