産学官共催セミナー 開催報告

国産早生樹センダンの使い道

[文責]村田功二(京都大学)

 関西支部早生植林材研究会では,2016年12月に熊本県林業研究指導所より提供されたセンダンを用いて工業的な利用を検討してきた.2018年9月14日(金)に近畿中国森林管理局,(一社)平林会,京都大学と京都府立大学と共催で大阪港木材倉庫(株)会議室においてセミナーを開催し,検討の成果を紹介した.セミナーには90名を超える参加者があった.

 
 写真1 セミナー会場

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1. 近畿中国森林管理局における早生樹造林の取り組み

近畿中国森林管理局 櫻井 知

 日本では高齢級の人工林が増え,資源として本格的に利用可能になってきた.これまで実施されてきた『間伐・保育』から『主伐・更新』の時代へと移行し,再生可能な森林資源を本格的に循環利用することが求められる.一方で木材価格の低迷,投資回収期間が超長期であることによって森林所有者の経営意欲が低下している.そのため林業の低コスト化と資本回収の短期化が望まれる.広葉樹に関しては輸出国の天然林資源の枯渇,クリーンウッド法の施行により合法性が確認できる国産広葉樹への期待が高まっている.森林・林業基本計画(2016年)では政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策として,再生利用が困難な荒廃農地の森林としての活用があげられ,早生樹種等の実証的な植栽等の取り組みが述べられた.センダンは熊本県で開発された芽かき施業により,短伐期で高品質な材が得られることから高単価による販売が期待できる.近畿中国森林管理局では連携協定を締結している京都府立大学・京都大学,早生植林材研究会と連携して早生樹の取り組みを行うこととし,センダン試験植栽を開始した.

 
 写真2 センダンパーティクルボード(左2枚)とセンダンMDF(右2枚)

2. センダンパーティクルボードの評価

日本ノボパン工業(株) 服部和生
永大産業(株) 西垣隆幸

 パーティクルボードの特徴としては,原料樹種を選ばず,比較的低質な原料から大きな板を作ることができる.表面が平滑でせん断強度・剛性が高いが,比重の高さの割には曲げ強度・剛性が低い.また吸湿・吸水時に膨張しやすいことがあげられる.もともと家具用途が主であったが,今後は耐力壁での利用が期待できる.熊本で伐採されたセンダンをチップ化してパーティクルボードを試作し,現行品(リサイクルチップ)のものと比較した.その結果,センダンパーティクルボードは現行仕様のものと比較して遜色なく,さらにパーティクルボードの欠点である吸水厚さ膨張率が小さいことから耐水性を高めた新しい用途開発ができる可能性がある.

3. センダンMDFの評価

永大産業(株) 西垣隆幸
ホクシン(株) 西川嘉文

 MDF(Medium Density Fiberboard)とは林地残材,間伐材,製材端材などを原料として,取り出した繊維(ファイバー)を接着材によって固めた板材である.木材同様に切削加工が可能で,板面と加工面の平滑性が高く化粧用途に適する.しかし吸放湿するために水分変化の影響を受ける.これらの特徴から内装,建材,家具の材料として,また近年は耐震性の高い構造用耐力壁として使用される.
 センダンチップをラボ設備で解繊してMDFを試作し(写真1),従来品の広葉樹チップ(南洋材),針葉樹チップ(国産材)を原料としたものと比較した.試作の結果,ファイバー化の条件の調整や他樹種の適切な混合比率を検討することによりセンダンをMDFの原料として利用可能であることが示唆された.

4. センダンの乾燥技術

奈良県森林技術センター 成瀬達哉

 熊本県で伐採された12年生のセンダン10本を対象とした.長さは250~300cm,末口径は15~20cm,元口径は20~30cmで,平均年輪幅は10~17mmであった.この丸太からだら挽きで厚さ25mmの板材を採取した.乾燥実験の結果,初期含水率74%,仕上がり含水率11%(調湿前では10%以下),乾燥時間は68時間(2.8日)となり,全乾密度は平均0.44g /cm3であった.試験体によっては縦ぞり,曲がり,幅ぞりがみられたが,ねじれは確認できなかった.これらの変形の対策として,乾燥時の重りの積載等が考えられる.42体中,7体で木口割れ,3体で材面割れがみられ,内部割れはみられなかった.

5. センダン合板・LVLの開発

永大産業(株) 川添正伸
兵庫県立農林水産技術総合センター 山田範彦
(株)ユニウッドコーポレーション 横尾国治

 ロータリーレースで切削された単板を繊維方向が直交するように積層接着した木質材料が合板である.以前は南洋広葉樹材(ラワン)が主原料であったが,近年は国産針葉樹(スギ,ヒノキなど)やポプラ,ファルカタなどの植林木も利用されている.寸法安定性に優れており,強度や寸法変化の異方性が小さいのが特徴である.長さ1mの熊本県産センダン(12~13年生,直径25cm前後)を使って蒸煮なしでロータリーレースによる単板切削を行った.単板の平均気乾密度(MC11%)は0.43 g/cm3であり,外周部ほど密度が高い傾向にあった.単板の曲げヤング率は平均5.9 GPa,曲げ強さは平均59.0 MPaであり,単板密度にほぼ比例する傾向にあった.

センダン合板
 厚さ2.2mmのセンダン単板を使用して,5プライの合板を試作した.市販の複合フローリング台板を比較対象として,JASフローリング規格に準じて物性評価をおこなった(曲げ試験のみJIS A5905).実験の結果より,センダン合板は複合フローリングの台板として使用される針葉樹合板と同等の性能が確認された.

LVLでの利用
 ロータリーレース単板を繊維の方向を一方向にそろえて積層接着した木質材料がLVL (Laminated Veneer Lumber)である.木材の異方性を継承し,繊維方向に対して垂直にかかる曲げ荷重に高い抵抗性を持つ.さらに多数枚数の単板を積層することで欠点が分散され,無垢材に比べて強度のばらつきが小さく,品質が安定する.早生樹のロータリーレース単板では,未成熟材を含むため単板の材質のばらつきが大きい.センダンでも髄付近と樹皮付近では密度が異なり単板の品質にばらつきがみられる.髄付近と樹皮付近の単板を交互に積層接着することで曲げヤング率のばらつきが小さくなることを確認した.

6. センダン材利用の新たな可能性

京都大学大学院農学研究科 村田功二
京都大学宇宙総合学研究ユニット 三木健司
大建工業(株) 大島克仁

トーンウッド
 楽器用木材,特に弦楽器に使用される木材はトーンウッドと呼ばれる.ローズウッドやエボニー,マホガニーなどがこれまで使用されてきたが,ワシントン条約の附属書IIに加えられ入手が難しくなってきた.そこで国産広葉樹,しかも成長が早く持続可能な材料である早生樹でトーンウッドとして使用できるもがないか検討した.従来のトーンウッドと,早生樹としてシラカンバ,ダケカンバ,センダンとの振動特性を比較した.その結果,センダンはマホガニーに類似することがわかった.

しゅう曲配向ストランドボード
 木材薄片を用いた木質積層材では曲げ荷重により木材薄片の接着面に界面剥離が生じやすく,界面剥離が連続することにより終局的な破断が生じる.プレス面に対して垂直方向にも界面が配向するように複雑な構造を持たせることで,界面剥離が連続することを防ぐことのできる木質材料の特許が出願された(大建工業 1997).特許に記載された製法にしたがって,しゅう曲配向ストランドボードを作成した結果,曲げヤング率や曲げ強さに違いはみられなかったが,曲げじん性には影響があらわれた.

宇宙における木質資源の実用性に関する基礎的研究
 京都大学では分野を横断した新しい宇宙研究・教育を推進するため宇宙総合学研究所ユニットが設置され,地球外における持続的社会の形成を目的として研究活動が進められている.その中で新しい試みとして,元宇宙飛行士の土井隆雄特定教授が中心となり宇宙木材利用の研究が始められた.樹木は持続的社会形成に重要な役割を果たす資源と考えられ,地球外で利用コントロールが可能となれば持続可能な基盤構築にとってのbreak throughとなりえる.研究メンバーは宇宙研究者に加えて,木材物性,植物生理と大気生物の研究者,企業と学生有志から構成され,疑似無重力条件での種子の発芽や低気圧条件下での樹木の生長,真空中の木材の物性変化について検討を進めている.

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